長崎で仲間を励ますアマチュア合唱団-6月に市内の教会で披露

全体練習の様子

全体練習の様子

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 長崎市立諏訪小学校(長崎市諏訪町)敷地内にある市民交流施設で3月24日、仲間を励ますための合唱イベントを予定するアマチュア合唱団が練習を行った。

女声アルトの練習風景

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 合唱団のメンバーは男女20人ほど。団体名はまだ決まっていないという。同じ飲食店の常連客らが中心となって構成されたメンバーは、今年2月22日に長崎市公会堂(魚の町)で開かれた「公会堂スーパーアマチュア文化祭」でも合唱曲「風」を披露した。

 メンバーの一人、吉田由美さんは2009(平成21)年7月26日、水難事故で当時小学1年生だった長男「ゆう君」を突然亡くした。ゆう君が誕生したのは長女が小学6年生の時。12年ぶりの男児誕生だっただけに、残された家族の誰もがわずか6歳での突然の訃報を受け入れられず、悲しみに暮れた。吉田さんは2012年、周囲の人たちや、ゆう君の友だちに支えられて再出発する家族の姿を「ひまわりは笑ってる」(文芸社刊)という1冊の本にまとめた。ひまわりが大好きだったゆう君の思い出を胸に、ひまわりのように笑顔で明るく歩こうとする家族の思いが描かれている。

 今回、同合唱団が選んだ曲は、長崎市出身の歌手・上奥まいこさんの4枚目のシングルとして2月25日に配信リリースされた新曲「願い」(作詞=上奥まいこさん・伊藤心太郎さん、作曲=伊藤心太郎さん)。家まで一人で帰る道すがら、悩んだり逃げ出したりしたくなった時に離ればなれになった大切な人をふと思い出してしまう。ふさぎ込む毎日から立ち直るため、その人と一緒に過ごした時をパワーに変えて生きていく決意が曲全体に込められている。同曲は上奥さんが「ひまわりは笑ってる」を読み、伊藤さんと一緒にイマジネーションを広げながら作った。

 ゆう君が通っていた長崎市立愛宕小学校(白木町)は今月、生きていれば卒業生となる彼のために吉田さんを招いて卒業証書を手渡した。公会堂の合唱の後、吉田さんが「願い」を何度も何度も歌い、息子を思い出してしんみりする姿を目にしたメンバーが、「今度は由美ちゃん自身の卒業式のためにみんなで歌おう」と提案。ほかのメンバーらも賛成した。その話を聞いたプロの音楽家が同曲を合唱用にアレンジし、「主旋律」「男声アルト」「女声アルト」の各パート用譜面を提供した。店休日の火曜を中心に店で数回練習を重ねてきたメンバーらの中には、腹筋の鍛錬など基礎練習も含め6時間以上練習した人もいるという。しかし、店では環境が十分ではないため先週から同所を借りて練習を開始。同所での練習は2回目となる。

 仕事帰りに集まったメンバーらは個々に発声練習を開始。上奥さんの小・中学時代の同級生で、長崎公演でコーラスを担当する鈴木妙里さんが歌唱指導をする。鈴木さんは「みんな口角に意識を集中して」と、メンバーにげきを飛ばす。「ほんの数日で合唱用に楽譜を起こしてもらった。本当にありがたい。多くのメンバーが本格的な合唱の経験がないので、楽譜があれば何とか音階の動きだけでも伝わる」とも。吉田さん自身も女声アルトを担当している。

 「ポケットの中には、君との思い出が…」。練習が始まると、先ほどまで談笑していたメンバーらが、しっかりと譜面を見つめ姿勢を正し、鈴木さんの指導に従って口角を意識しながら歌い上げる。

 「空は今日もきれい、青くて涙が出た」。男声、女声、混ざり合うハーモニーが大きくなり最後のクライマックス。「君といたあかし大切に、一人歩いて行く」。

 それぞれの仕事帰り、18時から3時間半ほどの練習を終えたメンバーらはお互いの労をねぎらいながら解散した。メンバーの一人、加藤聡さんは「なぜか私ともう一人の男性が女声アルトを担当することになったので、仲間からオカマと呼ばれている」と話す。「みんなの気持ちが一つになっている。吉田さんが新しい一歩を踏み出すきっかけになれば」とも。

 合唱は6月26日、カトリック愛宕教会(愛宕4)で行われる。毎月26日に同教会に通っているという吉田さんは「7月26日で7回忌を迎える。私たちを思ってくださる皆さんの気持ちは、天国の息子にもしっかり届いている」とほほ笑む。

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