好文堂書店(長崎市浜町)で9月5日、7月に刊行された「幕末の奇跡 ~ 黒船を造ったサムライたち」(弦書房刊)の著者・松尾龍之介さんを招いて出版記念講演会が開かれる。
同店と長崎経済新聞文化センターが共同企画した同講演会。幕末に現在の県庁の場所に設けられていた長崎海軍伝習所をテーマに書かれた同書は、製鉄と造船、航海術など当時最先端だった西洋科学の英知を集めた「蒸気船」を中心に混沌とした幕末という時代を描いている。
著者の松尾龍之介さんは1946(昭和21)年、「飴屋の幽霊」で知られる光源寺(伊良林1)境内にあった古い民家で生まれた。英語の教師を目指して北九州市立大学外国語学部を卒業したが1971(昭和46)年、漫画家を志して上京。漫画家・杉浦幸雄に師事し、主に漫画社を中心に活動した。洋学史研究会会員、俳句結社「空」同人でもある。現在は長崎市内在住。著書は「漫画俳句入門」(池田書店刊)、「江戸の世界聞見録」(蝸牛社刊)、「マンガNHKためしてガッテン-わが家の常識・非常識」(青春出版社刊)、「江戸の長崎ものしり帳」「長崎蘭学の巨人-志筑忠雄とその時代」「小笠原諸島をめぐる世界史」(以上、弦書房刊)など多数。
全体を8章で構成する同書。第7章までは、それぞれのテーマごとに2人ずつ14人のキーマンについて詳しく紹介する。第1章「幕府とオランダ」では阿部正弘とファビウス、第2章「生涯の宿敵」は勝麟太郎(海舟)と小野友五郎、第3章「江戸から脱走した幕臣」では中島三郎助と松本良順、第4章「陪臣からの転身」は五代才助と佐野常民、第5章「オランダ通詞の幕末」では西吉十郎と本木昌造、第6章「幕臣という呪縛」では榎本武揚と田辺太一、第7章「長崎製鉄所の生みの親」ではヘンデレキ・ハルデスと永井尚志をそれぞれ紹介。最終章「製糸業から外国航路まで」では日本が近代国家に変貌する様子を俯瞰してまとめ、巻末には海軍伝習生の名簿を掲載する。
「幕末の奇跡を書こうと思ったきっかけは、海軍伝習所について書かれた本があまりないから。日本の侍たちはペリー来航からわずか10年後、外国に頼らず自分たちだけの力で純国産蒸気船を完成させていることに感動する。14人のキーマンの中には出てこないが、私が一番魅力的で大好きな人物は水野忠徳。部下だった福地源一郎(幕末から明治にかけて活躍したジャーナリスト・作家・政治家)が小栗忠順、岩瀬忠震とともに幕末の三傑と称賛している。全員の名前に忠が入っているのも面白い」と松尾さん。同書では212ページから217ページにかけて水野を詳細に紹介している。
「8歳で旗本の養子になり、この養父が遊びまくった借金を背負って辛酸を舐めるが、持ち前の図太さと勤勉さで逆境を乗り越える。24歳で幕府の昌平坂学問所(東京大学の源流の一つ)に合格。外国事情にも詳しかったため、幕府が外国と交渉する際には外交に疎い交渉役に屏風の陰から指南をしていたことから『屏風水野』というあだ名が付けられた」と力説する。何度も幕府から「助けてほしい」と呼び戻されるが、そのたびにいろいろなしがらみに巻き込まれ、せっかく出した意見がことごとく通らなかったという水野に同情する松尾さん。「徳川慶喜の優柔不断さに絶望して身を引いた半年後に54歳で急死した。おそらく『みんなバカ野郎だ』と叫んで亡くなったと思う。まさに憤死の典型」とも。
同書を刊行直後に購入した長崎市議会議員の橋本剛さんは、海軍伝習生・香西少輔の子孫に当たる。「海軍伝習所について書かれた本は、いくつかの小説を除けば私が知る限り2冊しかない。面白そうだったので、すぐに購入した。松尾さんの話を楽しみにしている」とほほ笑む。
会場は同店・万屋町側入口スペース。講演時間は14時~15時。15時から座談会と質疑応答が行われる(15時30分まで)。終了後、同書購入者を対象にサイン会も。
参加無料だが事前予約が必要(095-823-7171 尾上さん・富沢さん)。参加者多数の場合は、同店3階ホールで開催する。