たこ焼き店主らが長崎の中高一貫校で「進路講演会」-中学3年生に向けて

中学生を前に講演する峯さん

中学生を前に講演する峯さん

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 中高一貫校の海星中学校(長崎市東山手町)で2月26日、高校進学を前にした3年生を対象に、同校卒業生のたこ焼き店主など、3人の一般社会人講師を招いて進路講演会が開かれた。

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 同講演会は社会科を担当する原貴大教諭(28)が、総合学習の授業の一環として企画。同校では同様の試みは初めてとなる。「中高一貫校なので中学3年生のほぼ全員が、そのまま持ち上がりで進学する。多くの人が受験や就職活動など人生最初の岐路に立つ時期に、本校だからこそできることを考えてみた」と原さん。長崎県対馬市生まれの原さんは長崎市内の高校に進学。当時の同級生や周囲の人たちに親切にしてもらったことが今でも忘れられないという。高校生活を送る中で「教員を目指そう」と決意。「自分は人に教えることが好きだと気づいた。好きなことで長崎の人たちに恩返しするために教員になろうと思った」と振り返る。県外の大学で学んだ後、同校に採用されて6年が経過した。

 修学期間の中間点に当たる中学3年生に、いろいろな職業の人の話を聞かせて将来の進路について真剣に考える機会を与えようと考えた原さん。ほかの職員の協力もあり、自営業、公務員、会社員として活躍する3人の講師がそろった。

 たこ焼き店「蛸(たこ)焼道場」(住吉町)を経営する峯幸里さんは、高校から入学した海星高校の卒業生。教職員として勤務する同窓生の森真琴さんから講師役を依頼され、「後輩たちのためなら」と快く引き受けた。当日、講演会に集まったのは男子58人、女子31人の89人。峯さんは子どもたちを前に自営業の大変さと、それでもほかの何ものにも代えがたいほどの楽しさについて語り始めた。

 「大阪にいる時に飲食関係のバイトをしてから飲食の仕事に魅せられた。長崎に帰って弟が始めた店を手伝い始めた」と話す峯さん。「喧嘩することは何度もあった。兄貴のプライドを捨て、頭を下げて料理を教えてもらったこともある。家族や兄弟との自営業は歯車が合えばものすごい力になる。そうでなければ他人の方が成功する場合が多い」と兄弟で商売をする難しさを分かりやすく伝えた。

 25歳になるまで、峯さんは深く考えずにいろいろな職業を経験した。「やがて仕事を真剣に意識するようになってくると、その経験が点と点を結んで線になるようにつながってくる。そして自分のオリジナルが少しずつ出来上がる」と子どもたちに訴える。「大好きなことに挑戦して志を高く持てば、どんなにつらいことがあっても必ず助けてくれる仲間が現れる。その人たちをいつまでも大切にしてほしい」とも。話が熱を帯びてくると、子どもたちの多くが少しずつ身を乗り出して聞き入った。

 卒業から25年ぶりに母校に招かれた峯さんは、かつての人気ドラマ「金八先生」にひそかに憧れていたという。「子どもたちからキラキラ輝くまなざしを向けられると、心が洗われて身が引き締まる。もし生まれ変わったら、学校の先生もいいかも」と笑顔を見せる。峯さんのほか、公務員として働く男性と地元の大手企業で働く女性が、それぞれの職業観を子どもたちに優しく語り掛けた。原さんは最後に全体の振り返りを子どもたちに投げ掛け、2時間ほどの授業は終了した。

 原さんは「ワークシートに書かれた生徒たちの感想は、『見識が広がった』『それぞれの話が非常に参考になった』という前向きなものが大半。自分自身も教師としてはまだまだこれからだが、いつの間にか生徒が成長している姿に気付いた瞬間が醍醐味(だいごみ)。天職に就けたことを日々感謝している」とほほ笑む。「この授業が参加した生徒にとって、人生の大きな希望になってくれれば」とも。

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