長崎市のランドマーク「女神大橋」の内部を見学できる体験型観光イベントのモニター参加者を募集したところ、5月11日13時の受け付け開始からわずか6時間で定員80人が満員となった。
女神大橋はそれまで分断されていた長崎市南部と西部を結ぶことで慢性化した交通渋滞の緩和と物流の効率化を図るため1994(平成6)年に着工、2005(平成17)年12月11日から供用された斜張橋。2010年からは長崎自動車道(高速道路)とも接続され、「ながさき女神大橋道路」(普通車=100円)として長崎県道路公社が管理する有料道路でもある(歩行者は無料)。港口に位置し、大型客船が入出港することを考慮して橋の部分は水面から非常に高い位置にある。
同イベントを企画したのは県道路建設課。「私たちは見慣れている景色でも、立ち入ることができない一般の人たちにとっては未知の世界。絶景ポイントもたくさんあるので、安全に一般公開することができれば観光資源の一つとして役立つのでは」というアイデアが会議で飛び出したという。
担当する同課企画幹線班の福田雅彦さんらは、長崎市が主催する街歩きイベント「長崎さるく」に着目し、同イベントの企画・運営を長年手掛けているNPO法人「長崎の風」代表の黒田雄彦さんに相談。黒田さんは3年前から市内各地で「橋さるく」を行ってきた実績を持つ。「さるく」とは散策するなどの意味を持つ長崎地方の方言。
「私たちは道路や橋については専門家だが、一般の人たちに向けたイベント運営は全くの素人。私たちの職場から飛び出したアイデアだが、実現させるためにはイベント運営の専門家である黒田さんたちの力を借りることが必要」と福田さん。両者で綿密な協議を重ね、最初は無料参加の「モニターイベント」を実施した上で改善点などを調査することが決まった。実施日は5月23日・24日。イベントタイトルの「女神大橋ば登ってみゅーで」は、「女神大橋に登ってみましょうよ」と呼び掛ける意味の方言。
福田さんらはこれまで「さるく」に参加した経験がなかったため、5月10日に黒田さんの引率で行われた「石橋さるく」に参加。40人ほどの参加者に向けて「明日からモニターイベント参加者の募集を開始する」と伝えたところ、受け付け開始時刻の13時直後から申し込みが殺到。窓口となる長崎国際観光コンベンション協会によると、19時ごろには80人の定員が満員になったという。同協会では申し込み期間を5月22日まで予定していた。
同イベントは各日2回(10時~、13時30分~)実施し、各回の定員は20人。施設内部が狭いので各回10人ずつ2班に分かれて行動する。参加者らは橋全体をワイヤーで支える2カ所ある橋桁のうち、1カ所の橋桁に向けて移動。橋桁には道路を挟んで2本の主塔が建っており、班ごとに橋の両側にある歩道を歩いてそれぞれの主塔入り口部を目指す。見学場所が同時に重ならないよう、それぞれ「主塔頭頂部」「水平梁部」「橋桁下部」などを見学する予定。主塔部全体の高さは170メートルあり、登ったり降りたりする内部階段は片道400段ほど。参加するには相応の体力が必要になる。
福田さんは「予想以上の反響に驚いた。本来立ち入り禁止の場所で一般の人たちが体験する企画なので、安全面の確保など乗り越えるべき課題がたくさんある。しかし技術者である私たちが企画した意義は大きいと思う。せっかく立ち上げた企画なので、本格的な体験型観光イベントとして実現できるよう、前向きに取り組んでいきたい」と力を込める。