書道スタジオ「スタート」(長崎市中町、通称=ショスタ)と長崎凧(ハタ)専門店「大守屋」(長崎市古川町、TEL 095-824-2618)が現在、フランスで行われるイベントに参加する費用を集めるための「クラウドファンディング」を行っている。
きっかけは昨年10月9日から12月7日に長崎県美術館で開催された「テオ・ヤンセン展」。テオ・ヤンセンさんは1948年オランダ生まれのアーティスト。デルフト工科大学で物理学を学んだ物理学者でもあり、風力で動く「ストランドビースト」など科学を応用した数多くの芸術作品を発表している。
同展開催中のある日、テオ・ヤンセンさんのアシスタントを務めるフランス人・工芸作家のリオネルさんが、宿舎から美術館まで通う途中にある大守屋に立ち寄り、店主の大久保学さんに「フランスで開かれる『風と凧のイベント』に参加しないか」と誘ったという。リオネルさんは「毎日前を通るたび気になっていた」と話す。
フランス西部、ビスケー湾に面する「ノートル・ダム・ド・モン」で毎年開催されるイベント「A TOUT VENT!」は、4日間の会期中に国内外から6万人ほどが訪れる人気のフェスティバル。砂浜の会場で、日本では見慣れない形のカラフルな凧が数多く空に揚がる様子は、日本の凧揚げ大会とは雰囲気が大きく異なる。13回目となる今年は7月3日から6日まで開かれ、来年4月に行われる「凧揚げ世界大会」出場権をかけた予選会も兼ねている。毎年、数多くのメディアで取り上げられるという。
長崎では凧を「ハタ」と呼び、数百年にわたる独特の文化を持つ。大久保さんはこれまで、ショスタ店主・福山嘉人さんと数多くの「ハタと書道のコラボ」を行ってきた。リオネルさんに福山さんの活動を紹介する新聞記事などの資料を見せたところ、「若い人が書道に取り組む姿は素晴らしい。ぜひ一緒に」と、2人で渡仏することが決まった。
福山さんは三菱重工社員時代、数年間にわたり海外勤務をした経験があり、設計や現場などのさまざまな調整業務を担当していた。リオネルさんの助けを借りながらフランスの現地スタッフとメールで詳細な打ち合わせをするうち、渡航費や滞在費、そのほかの経費で負担する部分が100万円近くかかることに気づいた。
「海外勤務と言っても話せるのは片言の英語とスペイン語だけ。フランス語の辞書で調べながらやり取りをしているうちに、お互いの文化や感覚の違いによる勘違いがいろいろわかった。6月27日にフランスに到着予定で、イベント前にも2日間にわたり現地の子どもたちに書道を教えることになっている。帰国するまで10日間ほど滞在することになりそうなので、2人分の費用は正直大きい。このまま気づかなかったら一大事だった」と胸をなでおろす。「しかし、一生出合わないかもしれない大きなチャンスに出合えたことは感謝している」とも。
大久保さんは「外国語は全くわからないので、福山さんがいてくれて本当に助かった」と話す。大久保さんらは現地の子どもたちにハタ作りのワークショップや、ハタ揚げのデモンストレーションなどを行う予定。
福山さんは資金調達にクラウドファンディングを用いることを決意。クラウドファンディングとは、インターネット上に挑戦するプロジェクトなどのアイデアを公開し、個人スポンサーを募って資金を調達するシステム。調達方法はいろいろあるが、福山さんらは支払われる金額に応じてプレゼントを用意し、スポンサーが支払った合計金額が目標に達した場合のみ資金調達できる方法を採用した。達しない場合はスポンサーに返金される。
福山さんは大久保さんと相談の上、目標額を100万円に設定。出資額は3,000円、1万円、3万円、5万円の4コース。金額に応じた内容の「プレゼント引き換え券」を用意する。
3,000円コースは「ミニ凧セット」「手ぬぐいセット」のいずれかから選べ、1万円コースは好きな文字(3文字以内)が書かれた大守屋凧(40センチサイズ)を提供する。3万円コースと5万円コースはそれぞれ10人限定。クレジットカードで支払われるが、3万円以上の場合に限り銀行振り込みが利用できる。プロジェクト締め切りの7月5日23時時点で目標金額に達した場合のみ決済され、達しない場合はスポンサーの指定口座に後日、振り込み金が返金される。
福山さんは「シンプルなのに天高く舞い上がるハタを見たら、現地の人たちは驚くだろう。幼いころから生活の中で筆を持つことが当たり前の日本人だからこそ、一歩海外に出れば筆が奏でる日本人独特の書は現地の人たちを魅了する。長崎や日本の文化をしっかり伝えてくるので、ぜひ応援してほしい」と呼び掛ける。