長崎・伊王島で異才発掘プロジェクト「ROCKET」親子セミナー

鷹匠を体験する男児。左は石橋さん

鷹匠を体験する男児。左は石橋さん

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 長崎市のリゾート施設「やすらぎ伊王島」(長崎市伊王島町)で6月18日・19日、日本財団と東京大学先端科学技術研究センターが共同で取り組む異才発掘プロジェクト「ROCKET」親子セミナーが開催された。

子どもたちの目の前を鷹が飛ぶ

 同プロジェクトは、突出した能力はあるが現状の教育環境になじめなかったり、物足りなかったりして不登校傾向にある子どもたちに、学校でも家でもない新しい学びの場を提供するプログラム。小学3年生~中学3年生を対象として2014年12月に開校した。

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 対象となる子どもたちは「スカラー」と呼ばれ、応募者600人ほどの中から15人を1期生として選抜。「ユニークな子どもをつぶさない」「変わっていることを修正しない」「学びを強制しない」「教科書や時間制限がない」「苦手なことはICT(情報通信技術)で補う」「教えるのではなく挑発する」という独自の方針で進められる。今月30日まで2016年度「スカラー候補生」を募集している。

 昨年10月、長崎の市民団体「MINTEN(旧称=みんな天才ちゃんプロジェクト)」がROCKETプロジェクトディレクターの中邑賢龍東京大学教授を長崎ブリックホール(長崎市茂里町)に招き、500人を超える規模の講演会を成功させたことが、ROCKET初の「宿泊型親子セミナー」を伊王島で開催するきっかけとなった。

 伊王島は2011年3月に伊王島大橋が完成して長崎市香焼町と陸続きになったが、1972(昭和47)年の閉山まで炭鉱として栄えた島。島内には1890(明治23)年に建立され、1931(昭和6)年に建て替えられた馬込教会(国登録有形文化財。正式名称=聖ミカエル教会)や、日本初の鉄造灯台として1871(明治4)年に設置された伊王島灯台(被爆後の改修を経て2003年に再建)などがある。1989年にリゾート施設が開業。2005年に旧伊王島町から長崎市に編入された。

 親子セミナーには長崎県と鹿児島県から18組の親子が参加し、MINTENのメンバーらもスタッフとしてサポート。初日の13時30分から保護者らが本館内の会場に集まって中邑教授の講演「ユニークな子どもを理解する」を受講し、子どもたちは別の会場で互いに自己紹介を行うなど、親子それぞれのカリキュラムで進められた。1時間後には全員が近くの体育館に移動し、佐賀県武雄市で高校生のころから鷹匠(たかじょう)として活躍する女性・石橋美里さん(21)の講演「人と違った生き方~私はどうして鷹匠になったのか」を聴講した。

 石橋さんは子どもたちの前でフクロウのひなへの餌やりを実演。死んだひよこの足や首などをはさみで少しずつ切り取りながら与える様子を見た子どもから「残酷」と言われた石橋さんは、「でも鶏肉は食べるでしょ?ひなも食べないと死んでしまう。だから同じ」と答え、子どもたちは納得した様子でうなずいた。後半は体育館の床に仰向けに並んで寝た子どもたちの目の前を鷹に低空飛行させたり、二人ずつ両手で作ったアーチの中を鷹にくぐらせたり、一人ずつ子ども全員の腕に鷹を止まらせたりして、動物とのリアルな触れ合いを子どもたちに体験させた。その後、入浴などを済ませた親子は、保護者は保護者同士、子どもは子ども同士、それぞれ別会場で食卓を囲んだ「懇親会」を楽しんだ。

 2日目のカリキュラムは9時スタート。保護者らが中邑教授から講義を受けている間、子どもたちはROCKETプロジェクトリーダーの福本理恵さんの指導で「学校の勉強はお手伝いの中に隠れている」と題するワークショップを受講。フルーツデコレーターと呼ばれる道具を使ったフルーツポンチ作りに励んだ。

 福本さんはプロジェクターで映し出した「舐瓜」という単語の読み方を子どもたちに質問。なかなか答えられない子どもたちにさまざまなヒントを与え、ある男児から「メロン」という答を引き出した。

 その後「メロンと瓜の関係」について詳しい解説を始めると、立ち上がって大人顔負けの知識を披露する子どもも。「メロンは野菜か?果物か?」という福本さんの問い掛けに対する子どもたちの答はさまざま。「答は樹木に育つのが果物、地面で育つのが野菜」と解説し、「野菜であるはずのメロンが果物店で売られているのはなぜか?」と子どもたちに再び考えさせた。

 ワークショップのテーマは「意見と事実の違い」。子どもたちは数種類あるメロンの中から土台になるメロンを決め、色から受けるイメージをシートに書き出す。色紙を使ってイメージを決め、一人ずつ用意されたフルーツデコレーターでメロンをくり抜き始めた子どもたちは、糖度計を使ってメロンの糖度を計ったり、きゅうりやかぼちゃなど同系色の野菜をダミーとして混入させたりして楽しんだ。

 「ダミーの野菜が本物と簡単に見分けられるのはどうしてか?」と問い掛け、「水分の違い」に注目させた福本さん。見分けにくくする技を一緒に考えた。時折、ルールを逸脱する子どもに厳しく接しながら福本さんは「直感も大切だが、人に伝えるためには客観的事実を示すことがとても重要。そのことをお父さんやお母さんに伝えてほしい」と結んだ。子どもたちはメロンを果物だと思い込んでいる保護者への「いたずら」を想像しながら、保護者への「お土産」をうれしそうに持ち帰った。

 全過程終了後、出来上がったばかりのフルーツポンチを持って中邑教授に最後のあいさつに訪れた子どもたち。互いの連絡先を交換するなど、距離があった子どもたちが打ち解け合う光景もあちらこちらで見られた。中邑教授は「決して公教育を否定しているのではなく、学校に行かなければならないと思うことで苦しむ子どもたちにほかの道を示しているだけ。行儀やしつけはきちんと守らせるが、生き方は自由という選択であり異才として特別視はしない。存在は認めるが、やりたいことは自己責任でやりなさいと教えている」と笑顔を見せる。

 参加した母親の一人は「これまでこのような情報や機会がなく、本当にいい体験ができた。感謝している」と話す。MINTENの白石直子代表は「初めての親子セミナーを長崎で開いていただき、その手伝いもできてうれしい。これを機に私たちの活動も広げていきたい」とほほ笑む。

 次回の親子セミナーは長野県軽井沢町で8月に開催予定。

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