
映画「遠い山なみの光」の公開を前に旧県営魚の町団地・魚ん町+(プラス、長崎市魚の町)で8月25日、公開記念イベントが始まった。
現在は魚ん町+(プラス)として利用されている旧県営魚の町団地
1949(昭和24)年、当時は酒屋町だった同所に建設された4階建ての建物は1948(昭和23)年設計の「48型」と呼ばれる現存する最古の鉄筋コンクリート造りの公営住宅の一つで、「酒屋町アパート」と呼ばれていた。戦後復興期だった当時は全国各地に公営住宅が次々と建設され、設計年ごとに改良が加えられていた。6畳と8畳の和室がある2DKで台所に設けられた配膳窓が最大の特徴。現在は低層階をココトト(魚の町)が地域拠点として管理し、シェアキッチンやイベントスペースなどのほか、当時の暮らしを再現した宿泊施設なども入居する。
撮影前に長崎を訪れた石川慶監督らは同所を取材。カズオ・イシグロさんが幼い頃に見たとされる中川町団地と同じ造りとなっていることから、劇中でも広瀬すずさん演じる主人公が台所にある配膳窓から弁当を手渡すシーンがあるなど、同所の特徴を元に撮影セットを製作したという。
イベントでは、映画のパネル展や多くの人が暮らしていた当時の写真が並ぶ「団地の記憶」写真展を開催。マルシェや読書会も企画する。普段は非公開となっている当時のまま保存された映画のモデルになった部屋をガイド付きで案内する見学ツアーを8月30日・31日、9月12日~15日に開催。参加費は500円(中学生以下無料)で、各回10人まで。
9月13日~15日の14時~15時は長崎大学で近代の集合住宅や空き家問題を研究する安武敦子教授がモデレーターとなりトークショーを開催。13日は近畿大学の武富利亜教授と「カズオ・イシグロが描く団地の風景」、14日は建築家の鉄川進さんと「長崎の建築的遺産とまちづくり」、15日は魚の町団地の元住民の森田正則さんと「1960年代の魚の町団地の暮らし」をテーマに、それぞれトークを繰り広げる。参加無料。
「団地という場所は誰もが小さい頃経験した懐かしさのある場所。入居者とも団地らしい温かい横のつながりができてきているのがこの場所の魅力」と話すココトトの田中伸明社長。「映画に登場する1950年代の長崎の様子を膨らませられるような企画を手探りながらも準備してきた。劇中のシーンになりきったり、今の時代の新しい使い方を知ってもらえたりすれば」と来場を呼びかける。
開催期間は31日までと9月12日~15日。入場無料。