長崎市内の老舗チーズ専門店「タチバナフロマージュ」(長崎市栄町、TEL 095-825-7200)が6月3日、賑町電停前に移転した。
同店は今年1月に病気で亡くなった橘健二さんが1981(昭和56)年に長崎で唯一のチーズ専門店として長崎市出来大工町に開業。当時の日本人には今ほどチーズを食べる習慣はなかったという。フランス語でチーズを意味する「フロマージュ」を店名にするほどフランスチーズを数多く用意。「白かび」「青カビ」「ウォッシュ」「ハード&セミハード」「フレッシュ」「シェーブル」の6種類をそろえる。二代目店主の橘香絵さんは、「父はチーズに強いこだわりを持っていて、お客さまは父が薦めるチーズを喜んで買っていた」と振り返る。同店は健二さんの人情味あふれるキャラクターが売りで、病床に伏すまでは健二さんに会うために来店する人が多かったという。
「私は店の裏方を手伝い始めて10年。売り場に出るようになってからも3年ほどにはなる。以前はチーズ会社に勤務したこともあり、チーズの知識自体は豊富にあると思う。でも父のように『これがお薦めです』とお客さまに断言できない」という香絵さんは、自分の消極的な性格に長い間悩んできた。「チーズの味や風味、匂いは、ほかの食材以上に千差万別だということを知り抜いているから」と振り返る。
「どんなにチーズ好きの人でも全てのチーズを知っているわけではない。場合によっては好き嫌いというより生理的に合わない製品も少なからずある。私のミスでチーズ嫌いになってしまったら本当に申し訳ない」。香絵さんは自分の持つ知識を押すよりも「どんなチーズが欲しいのか」という客の要望を徹底的に聞くことに力を注いだ。「いつの間にか人の話を聞くのが大好きになった。お客さまのアバウトな感覚を手掛かりに選んだチーズを『おいしい』と喜んでもらえた時は本当にうれしい」とほほ笑む。
旧店舗は通行人がたまたま立ち寄るような立地ではなく、目的買いの来店客がほとんど。香絵さんは、「どこかにいい物件があれば」移転したいとぼんやり考えていたという。配達の途中、現在地の前を偶然通りかかって空き店舗に気づいた。「新しい店になって数カ月だったので、まさか空き店舗になっているとは思わなかった。不動産業者がたまたま知っている人だったことも偶然とは思えなかった」。スペースは旧店舗に比べて3分の1ほどに狭くなるが、不思議なくらいさまざまな条件が整っていた。「勘は当たる方」という香絵さんは「ここだ」と直感。その後はトントン拍子に移転まで進んだという。
2005年に健二さんが取得した「フランスチーズ鑑評騎士」の資格を、香絵さんも2009年に取得。同資格はフランス伝統チーズの遺産を守るために1954年にフランスで発足し、世界29都市で1万5000人の「フランスチーズ専門家」が所属する会が発行する。現在では長崎県内で唯一の資格者となる。「意識はしていない。それより資格に恥じない勉強を続けることが大事だといつも肝に銘じている」と話す。同店では以前から人気のチーズフォンデュやクラッカー、カステラなどの軽食、ワインやソフトドリンクなども用意。奥には4人掛けのテーブルがある。販売のほかにも不定期で店内でのチーズ教室、出張教室も行っている。
同店の特徴は大きなチーズを好きな大きさにカットしてもらえること。「人数に応じてや、少しずつたくさんの種類を食べたい女性には喜ばれる。保存の仕方や切り方など分からないことは何でも聞いてほしい。チーズが好きな人も興味本位の人も気軽にどうぞ」と香絵さんは来店を呼び掛ける。
営業時間は10時30分~19時(火曜~土曜)、12時~18時(日曜・祝日)。月曜定休。