長崎のアーケード商店街「ベルナード観光通り」で8月10日、「あったらいいな、こんな浜んまち!」をテーマに若者が主催する公開会議が開かれ、買い物客らも足を止めて会議の様子を見守った。
長崎で都市景観デザインの啓発活動に取り組む若者グループ「null 長崎都市・景観研究所」と、全国各地で「まちづくりプロジェクト」に取り組んでいる長崎出身の森恭平さん(26)が「長崎の将来のために何か共同でできないか」と意気投合。昨年12月に「長崎のまちづくり活動家」6人を招いて発表会を開いたところ、30人ほどの若者が集まった。
発表会には長崎市のまちづくり担当者や商店街関係者、大学やNPOの関係者などもオブザーバーで参加。白熱した議論や質問が飛び出し、「たった今、素晴らしいネットワークができたのだから今後も活動を続けられる仕組みを作ろう」という意見が出て、その場で実行委員会が誕生した。その後フェイスブックを活用して活発な話し合いを続けた結果、今回の会議が実現。公開会議は「null」と「U-30からはじめる長崎のまちづくり会議」の共催で行われた。「U-30」は30歳以下を意味し、30歳以下の若者から始めて幅広い年齢層の人たちがまちづくりのために連携することを目指す。
コーディネーターを務める森さんは1988(昭和63)年、長崎市生まれ。地元の高校を卒業後、佐賀大学教育学部美術工芸課程に進学。西洋画、日本画、彫刻をはじめ、染色・金属・木工工芸やデザイン、美術史などを一通り学んだ後、映像制作やグラフィック制作を専攻した。2008年12月、3年次在学中に佐賀市内でアートプロジェクト「アートコンプレックス」を開催。翌年は老朽化によるアーケード撤去の対策委員会や芸術を使って地域貢献を行う学生団体「佐賀芸術物語」などを設立した。同年9月に中心市街地で開いたアートプロジェクト「呉福万博」は、文化庁の地域文化芸術振興プランに採択されている。
大学卒業後は「江戸川橋地蔵通り商店街」(東京都文京区)、NPO法人「クリエイティブサポートレッツ」(静岡県浜松市)、「全国商店街支援センター」(東京都中央区)などを経て現在、早稲田大学大学院教育学研究科で都市地理学や経済地理学の研究に取り組む傍ら、IT技術で地域活性化を支援する企業の企画室に所属する。
「自分から進んで何かに取り組む」という姿勢を森さんが強く意識するようになったのは小学校6年生の時。長崎県庁近くにある両親が営む美容室に立ち寄った際、母親が「働きたい」と訪ねて来た若い女性と話していた内容を偶然立ち聞きしたことがきっかけだった。
女性の転職理由は「今の職場が面白くないから」。森さんの母親は女性に向かって「面白くないなら自分の力で面白くすればいい」と激しい口調で諭したという。「母はすさまじい形相で彼女に話し掛けていた。『なぜ自分で面白くしようとしないのか。まず自分の考え方を根本から変えなければ一生あなたは成長できない』と。子ども心に初めて目にする険しい形相の母の姿に驚いたが、彼女を優しく雇い入れた母に再び驚かされた。その後の彼女が別人のように働く姿を目の当たりにして、人が変わるきっかけを与えた母がとても輝いてかっこよく見えた」と振り返る。
今回の公開会議に先立ち、朝10時から「浜んまちヤングさるく」を開催。本田時夫・浜市商店連合会会長の案内で参加者はアーケード周辺の「知られざる場所」などを見学。本田会長の説明を聞きながら普段入ることができない場所にも潜入できた若者たちは「いつも通っている街の風景が視点を少し変えただけでこんなに違うのは驚き」と興奮気味に話し、午後からの会議に臨んだ。
公開会議には33人の若者が参加。会議は20年ほど前にアメリカで始まったといわれている「ワールドカフェ」形式で進められた。いくつかのテーブルに分かれた参加者は与えられたテーマについて各テーブルで議論を行う。その後、テーブルホスト以外のメンバーは他のテーブルへ移動。移動先のテーブルホストからほかのグループが行った議論のサマリー(要約)を聞いて、さらに議論を深める。これらを繰り返した後に各テーブルホストがまとめた報告を全員に行う。少人数のグループで自由な討論をしながら、ほかのグループの意見を参考にして議論を深めることができる。
討論後、参加者は自分なりにまとめた意見をそれぞれ1枚の紙に記入。33枚の「愛のメッセージ」(提案)として一人ずつ発表した。「若者が挑戦できる街」「ちゃんぽん文化の発信地」「英語専門店など異国文化が集まる街」などの提案に混じって、「外国の通貨が両替なしで気軽に使える街」という奇抜なアイデアも見られた。これらの意見は今後のまちづくりの参考にされる。
森さんは「まちづくりの中心は人。よそから来た大型店舗は肉食動物のように地域を食い散らかすが、商店街がうまく機能すれば地域に根を張り花が咲く。そのためには新たな価値の提供が必要。同じ土俵で戦ってはいけないし、まめな草取りや水まきが欠かせない。いい花を咲かせるため、これからも種まきを続けたい」と力を込める。