
長崎が舞台の映画「遠い山なみの光」の全国公開を前に8月11日、石川慶監督や主演の広瀬すずさん、吉田羊さんの3人が活水女子大学(長崎市東山手町)で朗読会を行った。
同作は長崎出身のノーベル文学賞作家・カズオ・イシグロさんの処女作が原作。イギリスで1982(昭和57)年に「A Pale View of Hills」として刊行されたヒューマンミステリー小説で、「遠い山なみの光」が邦題となっている。
朗読会では広瀬さんと吉田さんが日本語で物語のワンシーンを朗読し、学生が英文で読み上げるかたちで行われた。石川監督がそれぞれのシーンについて解説し、広瀬さんらも交えて撮影のエピソードを明かした。
同大チャペルに集まった50人ほどの学生の大きな拍手と歓声に迎えられた3人。吉田さんは高校時代の恩師の出身校が同大であると明かし、「大学への坂を夏場に上るのは汗だくで大変だった」と話していたことを思い返していたと話すと会場からは驚きの声が聞かれた。
広瀬さんが読み上げる主人公・悦子と二階堂ふみさん演じる佐知子という女性が稲佐山へ出かけるシーンについて、石川監督は「稲佐山は当時ちょうどロープウエーができたばかりの時期。戦後復興しつつある長崎の街を眺めながら会話する場面になっている」と説明。物語の中でも長崎にゆかりのある印象的なシーンとなっている。英文は同大国際英文科の桝田優花さんが読み上げた。桝田さんは佐知子さんの『もっと希望を持たなきゃ』というせりふが女性の将来の希望を象徴するように感じた」と感想を話す。広瀬さんは佐知子と向き合うシーンを思い返しながら、「二階堂さんのリアリティーのある佐知子さんとしての立ち振る舞いに芝居をしていて助けられたという感覚がある」と振り返った。
1980年代のイギリスでの悦子と娘・ニキとの会話シーンを読み上げた吉田さん。石川監督は「広瀬さんが演じた1950年代の悦子の30年後のシーン。ニキに長崎で暮らしていた頃の話を聞かせてほしいと頼まれ昔話を始める場面で演技も、ほぼ英語だった」と説明。英文は同大国際英文科の野崎瑠衣さんが読み上げた。「今の悦子さんは過去の佐知子さんをどう思っているのだろうといったことを考えさせられるシーンだった」と感想を話す野崎さん。吉田さんは「自分のせりふが日本語ではないというもどかしさもあったが、日本語ならではの微妙なニュアンスを英語の中で取り入れながら深い芝居ができたのでは」と振り返る。
撮影や「ある視点」部門に正式出品された今年5月の第78回カンヌ国際映画祭を振り返る広瀬さんと吉田さんは「カズオ・イシグロさんはとても気さくな方だった」と口をそろえた。石川監督も「ノーベル賞受賞者にマンツーマンで脚本の勉強をさせてもらい、ぜいたくな時間を過ごさせてもらった」と振り返る。
同作が女性の生き方を描いた作品であることから学生の悩み相談の時間も設けた。将来への焦りや海外留学への不安を明かす学生らに3人は自身の経験談などを踏まえながらアドバイス。「詮索する時間や道のりはきっと人生の宝になる。まだ焦らなくても大丈夫」「若いうちに経験することで質が変わる。本当に行きたいと思うなら飛び込むのもいいのでは」とエールを送る3人の言葉を学生らは前向きに捉え、笑顔を見せた。
最後に参加者全員でのフォトセッションも行い、学生たちとの交流を楽しんだ。
映画は9月5日、全国公開。