長崎市在住のビデオカメラマン・高橋幸秀さんが昨年製作したユーチューブ動画「季節はずれの精霊流し-311東北鎮魂火」が再びネット上で話題になっている。
動画は昨年3月11日に行われた季節はずれの精霊流しを追ったもの。精霊流しが行われたきっかけは、九州と東北を結ぶ「九州東北直結プロジェクト」のメンバー・合口香菜さん(29)が会合の中で話した何気ない一言。合口さんが「昨年は地元に帰って黙祷したが、今年は帰れないので長崎の海で静かに黙祷するつもり」と話したところ、それを聞いたメンバーらが「それじゃ、みんなで行こう」と反応。どんどん盛り上がるうちに精霊流しをすることになったという。
合口さんは岩手県陸前高田市の出身。東日本大震災で親戚や友人を失い、その年の12月に親戚が住む長崎市に移り住んだ。精霊流しを行った当時は百貨店に勤めていたが、海女の後継者不足に悩んでいた壱岐市が募集する「地域おこし協力隊」が目に止まり応募。同年5月、全くの未経験ながら「海女の後継者」として3年間採用されることになった。合口さんの亡くなった父親が漁師だったことから合口さんも幼いころから海に親しみを持っていたという。
動画の中で合口さんをはじめとするメンバーらは14時10分ごろ、長崎市高浜町の野々串漁港に手作りの精霊船を搬入。よく晴れた海の向こう側には軍艦島(端島)が大きく見える。精霊船は全長1.8メートル、みよしには「東北」の文字、「西方丸」の帆には陸前高田市の市章が描かれ、屋根には同市の花・ツバキがあしらわれている。
精霊船はメンバーらとともに漁船に乗り沖合いへ。防波堤から見送る人たちに合口さんらは大きく手を振って応えた。メンバーらは沖合いに出た後、精霊船にブイを付けて海面にそっと浮かべた。運命の14時46分。水面に響く鐘の音を背中に聞きながら、全員で静かに黙祷を捧げた。
黙祷の後、再び漁船に引き上げられた精霊船はメンバーの手によって長崎市の中心部「浜ん町アーケード」へ。大学生を中心とする復興支援グループ「長崎Sip-S」も合流する。精霊船に添えられたホワイトボードには「本日3月11日14時46分。野母崎の海へ、この精霊船を浮かべ黙祷を捧げてきました。東北へ思いを込めて」と記された。精霊船が出来上がるまでの過程を写真で紹介するパネルが立てられ、路上には道行く人たちが思い思いのメッセージを書いた横断幕が横たわる。復興カフェや、一緒にキャンドルを手作りして灯す「ともしびプロジェクト」。その日のアーケードは東北への思いであふれた。
日没後、精霊船は再び砂浜に運ばれ、メンバーが見守る中で火が放たれた。合口さんらは赤く燃え上がる船をじっと見つめた後、目を閉じて静かに合掌した。
長崎市は3月11日14時46分、今年も黙祷のためサイレンを鳴らす。