「ピチカート・ファイヴ」の元メンバーで音楽プロデューサーの高浪慶太郎さんが、地元長崎に活動拠点を移して初めて制作したCD「龍馬のハナ唄(赤盤)」が話題を集めている。
高浪さんは小説「竜馬がゆく」を読んだことがきっかけとなり、楽器としての月琴に大変興味を持ち、その音色をぜひ聞きたいと思ったという。月琴についてネットで調べたり、図書館で文献に当たったり、中国の楽器を扱う専門店を訪ねたりしたが、そこにあるのは合奏曲ばかりで一本の月琴だけで演奏されたものは見つからなかった。
高浪さんのイメージには、もの悲しい雰囲気で月琴を爪弾くお龍さんの姿があったので、世の中にないのなら自分でCDを制作しようと決意したという。
その後、故郷長崎に活動の拠点を移したのを機に、洋楽と月琴のコラボというテーマで昨年末から本格的に活動を開始した。しかし最初はまったくの手探り状態で、試行錯誤の連続だった。
特に現役の本物の月琴を見ることが困難で、演奏者にもなかなか出会えなかったという。
調べていくと明治の初め頃に月琴の音楽が流行した時期があったが、日清戦争の勃発とともに敵国の音楽として糾弾され、急速に廃れてしまったという歴史を知った。そのために現在では本物の月琴と出会うことが困難になったことが分かったという。
幸い人脈に恵まれた高浪さんは、長崎のミュージシャンと「高浪慶太郎となんがさきふぁいぶ」を結成。ボーカルと月琴演奏を担当したのは、不思議な縁で出会った「長崎検番」の琴音さん。
「本当に不思議な縁で琴音さんに出会い、演奏を聴いて体の奥が熱くなるのを感じた」という。琴音さんの祖母に当たる中村キラさんは、お龍さんに月琴を教えた小曽根キクさんの一番弟子。
出来上がったCDでは月琴のもの悲しい響きにフルートなどの現代楽器がアレンジされて、全く新しい楽曲に仕上がっている。
ジャケットデザインを担当したのは、高浪さんの実弟で長崎雑貨たてまつる店長の高浪高彰さん。高彰さんは、長崎の歴史をテーマに自らデザインした創作雑貨を地元長崎市内で販売している。
今回の第1弾を「赤盤」とし、秋ごろに第2弾の「青盤」を発売予定だという。いずれも12 曲入り。赤盤には「長崎ぶらぶら節」「ある晴れた日に」など長崎にゆかりがある歌を中心に収録されているが、福山雅治さんの「桜坂(インストゥルメンタル)」なども収める。
「今回30年ぶりに長崎に戻ってきて、長崎を離れる前の自分とは違う視点で故郷を見ることができるようになったと思う。同じ九州でも福岡にはめんたいロックと呼ばれる独特の音楽土壌があり、ライブハウス「照和」というステージが多くのミュージシャンを生み出した。彼らには福岡発の音楽だという文化が根付いている。しかし長崎からは多くのミュージシャンが出ているにもかかわらず、独自の音の文化というものはない。別に長崎にこだわった音楽を作り出す必要はないが、いい意味で長崎の保守の部分と革新の部分のバランスを取った新しい長崎発の音楽文化の一翼を担えたら嬉しい」と高浪さん。
弟の高彰さんがデザインしたポップなジャケットの他にも、長崎の古地図や読み物としても楽しく工夫された楽曲解説も添えられている。
「長崎の歴史に関するものを扱うと、どうしても行儀よく堅くなってしまう。温故知新という言葉が示すように古いものの中に新しい息吹が芽生えている。長崎をファッションとして、おしゃれとして楽しんでもらえればと思う。青盤にも期待してもらいたい。」と第2弾に早くも意欲を燃やしている。
価格は2,800円。問い合わせは長崎文献社(TEL 095-823-5247)まで。