長崎市在住の漫画家・岡野雄一さん(64)が週刊朝日で連載中の漫画「ペコロスの母の玉手箱」が10月21日、単行本として刊行された。発行は朝日新聞出版(東京都中央区)
漫画のモデルになった岡野さんの母・光江さんは今年8月24日、老衰のため入所先のグループホームで亡くなった。享年91。岡野さんのデビュー作「ペコロスの母に会いに行く」(2012年、西日本新聞社刊)は愛くるしい絵とほっこりする長崎弁で描く世界観が人びとの共感を集め、2013年の日本漫画家協会賞優秀賞を受賞。現在21万部を超えるベストセラーとなっている。
実写版として製作された同名映画はキネマ旬報日本映画ベスト・テンの第1位をはじめ、複数の映画賞を獲得。台湾など海外でも上映された。第2弾となる同書では、週刊朝日に連載した56話に新たな書き下ろし20話を追加。数本のエッセーも盛り込まれている。
昨年5月、岡野さんは「一日でも長生きしてほしい」と、悩み抜いた末に光江さんに「胃ろう」を施すことを決断。その後、言葉を発することもできず次第に動かなくなっていく光江さんをずっと見守りながら、記憶を失い、時間軸が入り乱れる認知症の人の言動を拾い集め、家族の喜怒哀楽や庶民の暮らしを切なくユーモラスに描く連載漫画「ペコロスの母の玉手箱」が誕生した。岡野さんは「この本の制作途中で母は亡くなったが、母の死によって描き下ろしのページのみならず、本全体のアレンジに追悼の空気が色濃くにじみ出ることになった」と振り返る。
前作との違いについて、「前作が母の人生を表す文章の『、』(読点)だとしたら、この『ペコロスの母の玉手箱』は『。』(句点)なのだと思う」と岡野さん。「鳶(とび)が舞う輪の下に玉手箱が一つある。そのふたを開け、かすかに覚えている出来事や日差しや匂いを追体験しながら描いた。まさに施設のベッドの中で見えない針と見えない糸で黙々と母が縫い物をしていたように、一つ一つのエピソードを紡ぐことで出来上がったパッチワークのような本」とも。
週刊朝日の高橋美佐子副編集長は「今回の単行本は略して『母玉(ははたま)』。発売したばかりだというのに重版が決定した。すてきな本に仕上がり、天国の光江さんも喜んでくださると思う。パラパラ眺めながら、毎週毎週ペコロスに支えられてきたこの1年半を思い出し、思わず涙が出てきてしまった。心においしいコミックエッセーを、この世に出せたことに乾杯したい気分」と笑顔を見せる。
岡野さんは「母が針仕事をしながら『描くことはまだまだあるやろ』と、丸いちゃぶ台で宿題をする小学生の僕につぶやく声が聞こえてくるみたい。僕はいまだに母の掌(たなごころ)の上にいる。一冊目と同じく、この本が介護に携わる全ての人たちの気持ちに寄り添い、少しでも癒やしになれるよう祈り、願っている」とほほ笑む。
サイズはB5版変形、全192ページ。価格は1,296円。10月26日14時~、メトロ書店本店(長崎市尾上町)で岡野さんのサイン会を行う予定(先着100人)。