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一人一人がオンリーワンのアーティスト~世界地図制作の現場で多様性を感じる~

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HafH Nagasaki SAIからの依頼で、長崎県で障がい者サポートを行うAIUEO LAB.、障がい者アートワークをサポートする TSUNAGUアートワークス、ファシリテーターとして障がいを持ちながら子どもたちにアートの魅力を伝えるデザイナーのLaila Cassim氏、HafHとのコラボによる公開制作イベント「Diversity in Residence vol.4” Touch Diversity Project” 世界地図を描こう」が行われた。

 


完成後、お披露目する大瀬良さん、Lailaさん

 

 216日から17日にかけて長崎県美術館で行われた同イベント。ガラス張りの建物に雲間の中からわずかに光が差し込む。中では子どもたちが真剣にペンや鉛筆を塗り進める。ファシリテーターにデザイナーのLaila Cassimさんを招き、長崎に住む障がいを持つ子どもたちが作る「オリジナルの世界地図」の公開制作に足を運んだ。制作を担当するアーティストは皆障がいを持ちながら長崎で生活する子どもたち。2日間かけて行われた地図制作を追いかけた。

 

 1日目の午前はまずはアーティストたちがどのように描くのかを捉えるためにスケッチブックに自由に描く時間となった。1日目の午後からはいよいよ本番となる。スケッチブックとは異なり、表面がややすべすべしているシール台紙付きの本番の紙に最初は戸惑う様子もあった参加者だが、クリエーターやサポーターのアドバイスを参考に次々と色を塗り重ねていった。今回の世界地図は大きな1枚の世界地図と拡大した日本地図の2種類を合わせて1枚のものとしている。それぞれの地図は全部で8つの「北アメリカ」や「ヨーロッパ」などのようなパーツに分けられ、各アーティストが「自由に」ではなく、「その世界をイメージしながら」塗り進めていく。

 

 世界地図を作ることになった経緯について、今回制作を依頼したKabuk Style共同代表の大瀬良亮さんに話を聞いた。

 


完成した地図の中で気に入っているというインドを指す大瀬良さん

 

ー今回地図制作に至った経緯は?ー

 

 HafH Nagasaki SAI2019年1月にオープンしました。世界中からお客さんを迎えていく中で、お客さんがどこから来たのかピンで刺せるように、そしてとてもフラットな壁なので、何かアーティスティックなものを作れないかと考え、昨年5月ぐらいからLailaと話をしてきました。東京で彼女に出会った時に、彼女の力で何かオンリーワンのものを作ってもらいたいと考え話を進めてきました。そして昨年秋に一度、長崎でLailaとワークショップを開き、この時にもTSUNAGUアートワークスの子どもたちにも参加してもらいながら60人ぐらいの子どもたちがここに集まりました。そこで多様性についてなどのトークセッションを行いました。それを踏まえて今回本番になったという感じです。

 

 制作に携わる子どもたちはそれぞれが皆「アーティスト」だ。アーティストをプロのデザイナーやイラストレーターの「クリエーター」、さらに事務的なことなどを介護、医療に従事する「サポーター」で支え、三位一体となって制作を行う。今回のイベントを企画・運営を行ったAIUEO LAB.Always I Understand Each Other -対話から学び、心、育む、世界を- をコンセプトにコミュニケーションを通じてさまざまな人材が活躍する基盤を作る企業だ。メンバーの貞松徹さん、石丸徹郎さんに話を聞いた。

 

ー障がいを持つ人が芸術の分野というのはよく聞くが、AIUEO LAB.の特徴は?ー

 

 障がいを持つ人が何か芸術の分野で制作するのはよくあります。しかし、実はアーティストさんの中にはスキルを持っていても自分自身をブランディングすることが苦手な方もいます。そこで私たちでアーティストさんたちをプロデュースすることができればと思っています。また、事業所で働く人でも実は「隣の福祉」というものを知らない人が多いです。隣の福祉を知ることでお年寄りや障がい者だけでなく、幅の広い対応ができるようになると思います。イベントを通して福祉施設の横のつながりだけでなく、私たちで障がい者雇用のための環境づくりをお手伝いができればと思っています。まずはそんな環境が作れるタッチポイントを作り続けていこうと思っています。

 

 「アーティスト」の多くが普段から参加しているTSUNAGUアートワークス。ここは、障がいを持つ人が自由に創作活動をする場だ。TSUNAGUアートワークスを主催している野坂知布さんにイベントに参加しての感想を聞いた。

 


野坂さんからアドバイスをもらう参加アーティスト

 

ー先生と呼ばれていますが、先生から映った子どもたちの様子は?ー

 

 僕自信が特別支援学校で教えていたので先生と呼ばれているようです。特別支援学校では手を動かして何か制作するということをよくするのですが、卒業した後に創作をする場所がありませんでした。そこで、子どもたちの出会いの場や機会作りになればいいと思い、TSUNAGUアートワークスを立ち上げ、定期的に創作をする場を設けています。普段から参加している子どもは描きたいという気持ちが強いので今日も問題なく書けると思います。いつもは何もテーマを与えずに自由に描かせているのですが、今日は「世界地図」というテーマがあるので、普段とは違うところもありますが、プロの方と混ざり合ってどんなものができるのか楽しみです。

 

 制作に長与町から参加した前田海有さんの母親の美起絵さんに話を聞いた。

 

ー参加のきっかけは?ー

 

 娘は小学5年生ですが、普段からTSUNAGUアートワークスに参加していらっしゃる先輩から紹介をしていただきました。娘も何度かTSUNAGUアートワークスに参加しています。

 

ー実際に制作をしている様子を見てどのような気持ちですか?ー

 

 普段からよく絵を描いています。特別支援学校でもよくクラスみんなで作るような創作活動をしています。よく絵を描くが今日は普段は触らないペンやテーマが決まっているなど普段と違うところもあるのですが、初めてのものに楽しんでいると思います。他の方の絵や大人の方のアドバイスを見たり聞いたりして新しい刺激になればいいと思います。まだ完成のイメージができていませんが、出来上がりが楽しみです。

 

 同じく長与町から参加した城瑠那さんと母親の加奈子さんに話を聞いた。

 

ー娘さんと絵はどのような関係なのか?ー

 

 娘は自閉症を持っているので言葉はほとんど話しません。娘は思うこと絵をツールとして表現しています。絵を描くことは好きなようで、普段からスケッチブックとクーピーを持ち歩きセットとして常備しています。なので今日、形のあるものに描くというものがとても新鮮です。娘にとって絵を描くことは人とつながりを作ることです。絵があることで人とスムーズに会うことができると思います。

 


Lailaさんからアドバイスをもらう瑠那さん

 

ー制作する様子を見てどのような気持ちですか?ー

 

 最初は形があるものに書くのに抵抗があったようですが、いろいろな方からのアドバイスを飲み込んでいるようです。今日は他の参加者さんの様子を見ていると、それぞれ違う伝え方を持ちながらもいい刺激になりそうです。いろいろなインプット、アウトプットが合わさったところを一度に見られるので出来上がりが楽しみです。

 

 今回のイベントでファシリテーターを務めたLaila Cassimさんは日本生まれ世界育ちのイギリス人。自らも障がいを抱えているが、デザイナーとして自らのスキルを社会福祉の現場での専門性と掛け合わせ、障がいを持つアーティストの社会参加と経済自立を促すための商品開発やデザインのプログラム・ワークショップの企画・運営などを国内外で行っている。地図完成後に今回の2日間を振り返ってもらった。

 

ー今回の制作、お披露目までを終えて今の率直な気持ちを教えてくださいー

 

 苦労したとかはないが、疲れた。でもみんなのお披露目の時のリアクションを見ると狙った通りになったなと思う。しばしば障がい者がアートを、というと繊細で細かい絵を思い浮かべたり、取り上げられたりすることが多いが、私はそういうのではなく、もっと殴り書きのようなものを求めています。福祉施設にありがちなかわいさではなく、技術など無垢(むく)な想像力を大事にしました。

 

ー制作段階で特に大変だった部分は?ー

 

 かわいくしすぎないように作るのが私のスタイルなので、描いてもらったパーツ全てを使いたいという声もあったが全部は使わなかった。何を残すのか決めることが大変だった。

 

ーお気に入りの地図のパーツはあるか?ー

 

 ガラパゴスなどがすごく気に入っている。島を家に見立ててくれていて、とてもいいと思う。飾りとして入れたペンギンも、2つのパーツを組み合わせて貼っている。これも気に入っています。

 

 制作中に「あなたにとっての障がいとは?あなたにとってのDiversityとは?」について聞いた。

 

 障がいとは社会が作り出すもの、人工物だと思います。Diversityとは自分が自分でいていい認証と、他人が人でいていいとわかることだと思います。(Lailaさん)

 

 障がいとは個性だと思います。Diversityも個性だと思います。(貞松さん)

 


完成した地図の前で話す(左から)Lailaさん、石丸さん、貞松さん、大瀬良さん

 

 障がいとは個性、多様な価値観、ポテンシャルだと思います。Diversityとは今までの当たり前に「良い」と考えられているものが正解ではない、多様な考え価値観を個性にすることだと思います。(大瀬良さん)

 

 障がいについては考えたことがないです。僕は障がいという見方で考えを始めないです。障がいは僕にとって入り口ではないです。Diversityとはそういう活動をやっていることが大事なのではなく、Diversityが当たり前、その価値を知ることだと思います。Diversityは特別なものではないと思います。(石丸さん)

 

 HafHAIUEO LAB.共に、今後もDiversity、障がい者が輝けるプロジェクトをそれぞれ行っていくという。「僕たちのコンセプトはコミュニケーションをツールとして街、人、暮らしの個性をブランディングすること。今後も障がい者、福祉などに関して話ができるストーリーテラーがたくさんいます。そういった人たちのプロデュースをやっていきたいです」(貞松さん)

 

 完成した世界地図は2月17日、長崎市古川町のHafH Nagasaki SAI 3階のコリビングスペースでお披露目された。今後は施設利用者が出身地などを自由にピンで刺せるようにしていくという。石丸さんがアーティストたちと手掛けた作品は長崎県美術館内のショップにもコーナーを設けている。

 

 日常生活でよく見るバリアフリーは身体的な障がいを持つ人へのものが多い。今回の地図制作のイベントはハード面のバリアフリーが多いこの毎日の中でソフト面、気持ち、マインドに訴えるものがあるバリアフリーだったのではないだろうか。

 

(文責:中島瑞穂/長崎経済新聞学生記者)

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