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2020年夏公開・映画「祈り」 被爆マリア像テーマに平和を次世代につなげて

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被爆マリア

 

 1945(昭和20)年8月9日、長崎に原子爆弾が投下された。8月6日の広島に次ぐ史上2回目、そして現在、人類史上実戦で使用された最後の核兵器である。長崎に投下された原子爆弾「ファットマン」は松山町上空500メートルでさく裂。熱線と爆風によって街は壊滅的な被害を受け、当時の長崎市の人口(推定)24万人のうちキリスト教徒8500人を含む約7万4000人が死亡。建物の約36%が全焼または全半壊している。

 


Charles Levy - U.S. National Archives and Records Administration
Mushroom cloud above Nagasaki after atomic bombing on August 9, 1945. Taken from the north west.

 

映画「祈り」は、被爆から75年の節目を迎える2020年・夏に向け「戦争を知る世代が少なくなっている今、戦争と原爆の悲惨さを後世にこの事実を伝えていきたい」と製作が進められている。田中千禾夫の戯曲「マリアの首」を原作に「人間愛とは正義とは何か」、そして、最後の被爆地・長崎を全世界に向けて平和を願って描かれている。

 

 物語は爆心地から北東へ約500メートルの場所にあり、原爆によってほぼ原形をとどめないほど破壊された浦上天主堂の保存を巡り議会が紛糾する1957(昭和32)年の長崎の街を舞台に、戦争の記憶と傷跡を残すために奔走する人々の姿を描く。

 


破壊された浦上天主堂(1946年1月7日撮影)

 

 主人公で高島礼子さん演じる「鹿(しか)」は、被爆のケロイドを持ち、昼は看護婦、夜は娼婦として働く。幼い頃の信者仲間で病床の夫の詩集を売りながら鹿に男の世話をする黒谷友香さん演じる「忍(しのぶ)」と共に壊れたマリア像の残骸を密かに盗み集める2人。雪が降り始めた大みそかに被爆で傷跡を負った男たちと共にマリア像の首を盗み出し、安全な場所に隠そうと天主堂に忍び込んだところで思いもしない結末を迎える。プロデューサーの亀和夫さんは「社会の底辺に生きる人々が戦争の記憶を後世に残すために奔走するヒューマンドラマが映画の見どころ」と話す。

 


主演の高島礼子さん(右)と黒谷友香さん

 

 原作「マリアの首」から映画「祈り」への脚本を手掛ける渡辺善則さんは原作が『ゴールを目指す三幕構成』など近代劇の約束事をことごとく破壊し、田中千禾夫さん本人も『詩劇』と呼ぶ独特の世界が繰り広げられた作品であることから、物語の「始まり」と「終わり」は原作に忠実にしつつ、物語の展開を再構築。「原爆被爆を題材にしてこれほど豊穣で多彩。魅力的な登場人物とストーリーの面白さから平和祈念の思いが、これほど伝わりやすい作品は見当たらないことから、あえてゴールを目指す3幕構成にしている」という。

 

 監督を務める松村克弥さんは、2015年に戦後70年企画として公開された「サクラ花-桜花最期の特攻-」や2019年に公開された日立鉱山の公害を描いた「ある町の高い煙突」を手掛け、ヒューマンドラマの名手として高く評価されている。「サクラ花-桜花最期の特攻-」は太平洋戦争中に茨城県・神之池基地を舞台に人間爆弾とも呼ばれた特攻兵器「桜花」に搭乗する特攻隊員となった若者らを描いている。「ある町の高い煙突」では急速な近代化を進めていた明治末期の日立鉱山(茨城県日立市)から排出される煙害と命がけで戦い、当時世界一の高さを誇った大煙突の建設へとつなげていく物語。

 

 2020年1月中旬、埼玉県深谷市や茨城県笠間市、千葉県市川市でのロケがスタート。2月4日からは撮影の舞台を長崎県内に移し、長崎市にある館内市場や長崎電気軌道浦上車庫、観光名所の一つ「どんどん坂」で撮影を行ったほか、波佐見町立小学校や川棚町にある旧海軍魚雷発射試験場跡で撮影が行われ、2月11日にクランクアップを迎えた。

 


浦上車庫(長崎市大橋町)での撮影風景

 

 松村監督は撮影を振り返り、村田雄浩さんが「ラストシーンでの登場人物の心境はどうだったのでしょう」と声を上げてくれたことで現場にいた俳優で議論を交わしてセリフを決めるなど、撮影中に起こったストーリーを交えながら「地元に来ることで思いが伝わる。俳優らが自ら長崎の歴史を学び、浦上天主堂や原爆資料館を訪れてリアリティーを感じる熱演を見せてくれた。納得のいく作品になった」と笑顔を見せる。

 


ラストシーンの撮影風景(川棚町・魚雷発射試験場跡)

 

 映画の撮影ではスケジュールの都合でラストシーンを最後に撮ることはまれで、自身は今作で初めて実現したという松村監督。「戦争を描いた名作といわれる映画は数多くあるが、女性が主人公の作品は珍しい。世の中に認められない女性たちが長崎の記憶を残そうとする原作を書いた田中千禾夫さんの目線が素晴らしい」と魅力を話す。

 

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