カトリック愛宕教会(長崎市愛宕4)で5月19日、仲間を励ますアマチュア合唱団が6月26日の本番に備えて、実際に合唱を披露する予定の聖堂で初めて現場練習会を開いた。
今年2月22日に長崎市公会堂(3月末に閉館)で行われた「公会堂スーパーアマチュア文化祭」で合唱曲「風」を披露するために同じ飲食店の常連客らが中心メンバーとなり、前身である合唱団が結成された。当初はイベント終了後に解散する予定だったが、メンバーの一人・吉田由美さんを励ますため参加可能なメンバーらで合唱団を再結成したもの。
2009年7月26日、水難事故で当時小学1年生だった長男「ゆう君」を突然亡くした吉田由美さん。わずか6歳での突然の訃報を受け入れられなかった家族の誰もが深く長い悲しみに暮れたという。吉田さんは2012年、周囲の人たちに支えられて再出発を誓う家族の姿を「ひまわりは笑ってる」(文芸社刊)という本にまとめ、ひまわりが大好きだったゆう君の思い出と、笑顔で明るく歩こうとする家族の思いを描いた。ゆう君が通っていた長崎市立愛宕小学校(白木町)は今年3月、生きていれば卒業生となる彼のために吉田さんを卒業式に招いて卒業証書を手渡した。
吉田さんが以前から応援している長崎市出身の歌手・上奥まいこさんは、吉田さんの著書「ひまわりは笑ってる」を読み、作曲家・伊藤心太郎さんとともに同書に描かれたイメージを広げて新曲「願い」(作詞=上奥まいこさん・伊藤心太郎さん、作曲=伊藤心太郎さん)を2月25日にリリース。公会堂の合唱の後、吉田さんが同曲を歌いながらしんみりしている姿をたびたび見かけたメンバーらが、「今度は由美ちゃん自身の卒業式のために、みんなで歌おう」と、同曲を歌う合唱団の再結成を呼び掛けた。
飲食店の定休日に当たる毎週火曜の18時から長崎市立諏訪小学校(諏訪町)の市民交流施設に集まって毎回3時間以上、練習を重ねてきたメンバーら。銀行員や公務員、自営業者などそれぞれ仕事を持ち、多忙にもかかわらず可能な限り仲間のために時間を割いてきたという。
同合唱団のためにプロの音楽家が「主旋律」「男声」「女声」のパートごとに楽譜を提供。上奥さんのコーラスを務める鈴木妙里さんの指導により、アマチュアとはいえ音楽の基礎となる発声から地道に練習を重ねてきた。吉田さんから練習の様子を聞いていた同教会の井田明主任司祭が「ミサなどがない時であれば、実際に歌う聖堂で自由に練習してください」と吉田さんに提案して練習会が実現した。
この日、集まったメンバーは男女約20人。ギターの生演奏をバックに、メンバーらがパートごとに練習を重ねた歌声が聖堂に響き渡った。聖堂正面に2列に並んだメンバーらは、大きく書き出された歌詞カードを見ながら歌とともに振り付けのチェックも行い、練習は1時間30分ほどで無事に終了した。
鈴木さんは「やはり聖堂で歌うと厳粛な気持ちになる。メンバーの一人一人が同じように感じていたようだ。本番まで残り1カ月ほどだが、歌声が聞く人たちの心にしっかり刻まれるよう最後まで力を合わせて仕上げたい」と話す。6月26日の合唱本番は、亡くなったゆう君のために特別ミサを開く予定という。