老舗和菓子店「菓秀苑 森長(もりちょう)」(諫早市、以下、森長)が1月15日、年間5000個限定で長崎県島原産の黒ごまを使った「国産黒ごまカステラ」の販売を始めた。
江戸時代中期の1793年に初代の森龍吉さんが「おこし」の製造販売で創業した同社。森長の名は4代目・森長四郎さんが自分の頭文字を商標にしたことに由来する。1975(昭和50)年からカステラの製造を開始。1993年の創業200周年を節目に現社名へ変更した。
同社は伝統菓子の製造に加え、新しいスイーツの自社開発や他社とのコラボに積極的に取り組む。2014年10月に長崎のカフェレストラン「アティック」(長崎市出島町)を運営する「Attic coffee and dining」と共同で「出島珈琲カステラ」を開発。「甘くないカステラ」として評判になり、現在では韓国にも輸出販売されている。
7代目・森淳社長によると、数年前からごまの可能性に注目し、外国産ごまを使った「ごまカステラ」の試作を続けていたという。その出来栄えが想像以上に良かったことから「どこか国内にごまの生産者はいないか」と県の担当者に尋ねた所、「ながさき南部生産組合」(南島原市)が少量だが国産黒ごまを生産していることを知ったという。
「ごまの国内自給率はわずか0.1%程度。その一部が県内産と知り、とてもうれしかった。農産品とのコラボは初めてだが、希少性が高く品質も優れた『国産黒ごまカステラ』を新たな長崎の顔にしたい」と森社長。試行錯誤の末に完成した同商品は、国産黒ごまの生産量が極めて限られるため、年間5000個しか販売できない。森社長は外国産ごまを使用した「ごまカステラ」を並行して開発し、同時発売した。
「まさか自分が老舗和菓子店を継ぐとは思わなかった」と振り返る森社長は、佐賀県有田町出身。1999年に森家の婿養子になるまでは、同町で学習塾を経営していた。2009年11月、当時「生キャラメル」がヒットしていた世相に合わせ、「今度の生はカステラです」というキャッチフレーズを考えて「生カステラ」を発売した所、ヒット商品となった。
同商品は卵を多く使うため、賞味期限がわずかというコンセプトが受け、発売初日からネット販売だけで毎日400件以上を受注する状態が続いた。生産が追いつかず客は1カ月半以上待たされる事態に。その後、冷凍パックにすることで賞味期限と量産体制の問題を解決し、現在でも人気商品として売れている(現在の商品名は半熟生カステラ)。
「菓子作りは奥が深く、やればやるほど面白い。世界遺産で盛り上がる長崎の素晴らしさを、和菓子という観点からも海外に伝えたい」とも。
長崎市内の直営店「アミュプラザ長崎店」(長崎市尾上町、TEL 095-808-1128)の原川美子さんは「発売初日から珍しいと買い求めていく人が多い。香ばしい黒ごまの香りと独特の食感を、ぜひ楽しんでほしい」と話す。
「国産黒ごまカステラ」(3カット)の価格は540円、「ごまカステラ」(5カット)は777円。