旧香港上海銀行長崎支店記念館(長崎市松が枝町)で6月24日、長崎市出身の歌手・上奥まいこさんが新しいアルバムの発売記念ライブを開いた。
上奥さんは長崎市出身。母親がピアノ教師という家庭で育ち、3歳からクラシックピアノを母親に師事。しかし「歌手になりたい」という気持ちが膨らみ、17歳の時にピアノをやめ、ボイストレーニングやポップスなどの専門的なトレーニングを受け始めた。2003年に挑戦したオーディションで準優勝したことをきっかけに歌手を夢見て上京。バックコーラスを務めるなど、デビューのチャンスを根気強く待った結果、上京から10年後の2013年5月、AKB48の代表曲「恋するフォーチュンクッキー」の作曲者として知られるピアニストの伊藤心太郎さんに見出され、伊藤さんが作詞・作曲した「オレンジ色の観覧車」で念願のデビューを果たした。
6月12日に発売されたアルバムのタイトルは「外は雨」。18時30分、ステージに現れた上奥さんに集まったファンから「おかえり」の声が拍手とともに掛かり笑顔で応える上奥さん。伊藤さんのピアノが収録曲「寄り添い」を静かに奏で始めると拍手がやんだ。
「悲しいメールに心を乱して、どこにも行けない」。語りかけるように主人公の女性の心情を身振りも交えて歌い上げる上奥さん。「こんなに近くにあなたがいることを感じているよ」。静かに曲が終わり拍手が鳴りやむと、ギタリストの草野よしひろさんが軽快なイントロを突然鳴らし始めた。「おお」という声とともに拍手から手拍子に変わる。上奥さんが上京した時の気持ちと前向きな決意をつづった明るい歌「風」は、長崎のファンの人気曲の一つ。ファンと一体になって歌い終わった上奥さんは「まだ2曲目なのに感動して泣きそう」と話して笑わせた。
上奥さんは、8回ほど来崎したという伊藤さんを「この人がいたから(今がある)」と紹介する。「財津和夫さんのバックをやっていたころに初めて長崎を訪れた。いいところはたくさんあるが、空港の橋を渡るとき(長崎空港は日本初の海上空港)が一番好き」と笑顔で応じる伊藤さん。パーカッションを担当するKAZUさんは2回目の長崎。「長崎の人はすごく『いいね』を押してくれるので大好き」とほほ笑む。上奥さんがギタリストの草野さんに「長崎の人はおもてなし好きで、お薦めがすごいでしょ?」と尋ねると、「歯止めが効かないほど」と笑顔でうなずいた。
3曲目は収録曲「まっすぐな未来」。横浜にある法律事務所のCM曲として起用された同曲は、ゆったりしたバラード調。「レンガ色に染まるこの街 豪華客船が停まる場所」と歌い出すと多くの観客がリズムに合わせて体を揺らした。4曲目を歌い終えた上奥さんは、伊藤さんが仙台の友人やハウンドドッグのギタリスト・八島順一さん、リンドバーグのドラマー・Cherryさんらに呼び掛けて東日本大震災復興支援のためだけに作ったバンド「チーム直坊」を紹介。収益金全額を寄付するために制作したCD「新しい船」(1,000円)に触れ、「3月に石巻市を訪れ義援金を渡すことができた。今後は熊本の支援も行う」と話した。
「新しい船」の収録曲「オリーブの木を育てよう」では、上奥さんが曲に合わせてゆっくり手を振ると観客らも合わせて手を振る。再び草野さんが軽快にギターを掻き鳴らし、6曲目の「エバー」が始まった。「皆さんも一緒に」と上奥さんがマイクを向けると「エバー」「エバー」と観客らもコーラスに加わる。サビを歌い終わった後も、KAZUさんが激しいパーカッション独演を披露。観客らを魅了した。
続いてはピアノ弾き語りを熱唱する上奥さん。ピアノ教師の母親に「散々ダメ出しされた」と紹介して和ませた。にぎやかな収録曲「路面電車は夢を乗せて」は、長崎のテレビ番組「あさじげZ」のテーマソング。タオルを使った「振り付け」があり、観客らと練習を行った上奥さん。長崎電気軌道のマスコット「ながにゃん」をデザインした大型タオルを用意し「準備はいいですか?」と呼び掛けると、慣れた様子で観客らはタオルを取り出し、リズムに合わせて空中に2回投げ上げ、歌に合わせて振り回した。
9曲目は収録曲「ダーリンマイハート」。続いて被爆した祖父母から聞いた話からイメージして上奥さんが作詞した曲「影おくり」を熱唱し、「未来の教科書を読んだ未来の子どもたちが『戦争なんてやっていた時代があったんだ』と驚くような社会を作りたい」と自身の思いを語った。
男女の別れの曲「さよなら・ありがとう・ごめんね」を歌い始めると観客の中にはハンカチを取り出して目頭を押さえる人の姿も。次の「願い」では小・中学校の同級生・鈴木妙里さんが登場し、歌に合わせて手話を披露した。
タイトル曲「外は雨」を上奥さんが「最後の曲」と紹介すると、会場から「え~」と残念がる声が。「気を使っていただきありがとうございます」と応じて笑いを誘った上奥さんは、「新しいアルバムはスペシャルメンバーで再録音したので、ぜひ買ってください」とさらに笑わせた。
全曲を歌い終えて退場した上奥さんらに会場のあちらこちらから長崎独自のアンコール「もってこい」の掛け声が掛かった。再び登場した上奥さんは東京から駆け付けた「きよねえ」こと北澤清子さんをステージに呼び、体操のインストラクターでもある北澤さんと一緒に笑顔でアンコール曲を熱唱しながら全身をくねらせて踊ると、観客らも釣られて踊り出し大きな拍手とともに幕を閉じた。
ライブ終了後、CDやグッズを買い求める人の列が続き、震災復興支援CD「新しい船」は数分で完売した。上奥さんの学生時代の恩師や、さまざまな支援者らも観客として数多く来場。およそ100人のファンとの交流は、閉館時刻寸前まで続いた。退場する一人一人に「お土産」が手渡され、思わぬプレゼントを受け取った観客らは「また来るからね」と笑顔で帰宅した。
デビュー当時から支援を続ける男性は「あの独特の歌声がたまらない。回を重ねるごとに魅力が増している。今後の成長が楽しみ」と話す。25日は「佐世保フォーク村」(佐世保市島瀬町)で、26日は「諫早カントリー99」(諫早市城見町)で、それぞれライブを行う。