東日本大震災から9年を迎える3月11日、長崎大学で「土木・防災キッズアカデミー」が行われた。
主催する「噂(うわさ)の土木チーム デミーとマツ」は、長崎大学技術職員の「デミー」こと出水享さんと、サザンテック(大分県佐伯市)の上席技師長を務める「マツ」こと松永昭吾さんが2016(平成28)年に結成したユニット。さまざまなイベントを通じて子どもたちに学校では学べない体験を通して土木の役割を伝えているといい、キッズアカデミーでは土木が果たす市民の生活や防災についての役割について分かりやすく解説。これまで学童クラブなどで講演を行ってきた。
新型コロナウイルスの影響でイベント開催が難しいことから、オンライン会議アプリで時津町と長与町、宮崎県都城市の3つの学童クラブと長与町と諫早市、千葉県、神奈川県の4つの一般家庭をつなぎ、総勢100人以上が参加して初のオンライン開催となった。
教室ではまず、出水さんが「土木は優しさを形に変える仕事」と紹介。「道路や橋を作ることで移動を容易にでき、友達に会いに行ったり、急病の際に設備が整った遠くの病院にすぐに行ったりすることができる」と説明した。兵庫県と徳島県を結ぶ明石海峡大橋を紹介し、全長約4キロある橋の橋脚の間は約2キロで世界一の長さを持つことや、カンボジアを通るメコン川に日本人が初めて橋を架けた功績が現地の紙幣に描かれていることなど日本の優れた土木技術を紹介。1890(明治23)年にイギリス・スコットランドに架けられ、世界遺産にもなったフォース橋の建設にも日本人技師・渡邊嘉一さんが関わり、スコットランド銀行が発行する紙幣にも描かれるなど日本は昔から優れた土木技術があったことを紹介した。
「100の診療所より、1本の用水路を」と訴え2019年に殺害された中村哲さんについても触れ、「アフリカなど水道のない場所では子どもたちが毎朝、何キロも離れた場所まで水くみを行っている。中村さんは2003(平成15)年からアフガニスタン東部で用水路の建設に着手し、これまでに27キロメートルの用水路ができたことで現地の人々の栄養失調が改善した。医師も土木の重要性を認識している」と説明。
災害時に自衛隊が派遣される際も事前に土木関係者が現地で道路整備を行っていることにも触れ、「土木は英語で市民を意味する『Civil』と技術を意味する『Engineering』を合わせた『シビルエンジニア』という。交通事故を減らしたり、津波などの災害から暮らしを守ったりする構造物を作るのが土木の仕事。まさに市民のための技術」と締めくくった。
続いて登場した松永さんは「橋の設計や土木人材の育成に携わっているほか、津波がどのように街を破壊したかなど実験を行っている」と自身の仕事を紹介。東日本大震災で津波に流された街や熊本地震で被災した様子などを紹介しながら、「地震や洪水などはるか昔から自然の大きな力が起きていた。人が住むようになり、家が壊されたり、人が亡くなったりすることで災害と言い換える」と説明。「日本はほとんどの種類の災害が起こる場所。災害は繰り返し起こるので、被害状況を調べることで災害が起こる地域に人が住まないようにしたり、土木の力で被害を軽減させたりすることができる」と話し、「おじいちゃん、おばあちゃんなどから過去に起こった災害について聞くことや普段から避難経路を意識することでいざというときに災害から身を守ることができる」と話す。
地震が起こるメカニズムについて「地球上にある14枚のプレートが動いており、境界で大きな力が加わることで地震が起こっている」と解説し、「地球上の地震の1~2割が日本で起こっている。プレートが動いていることでハワイは毎年10センチ日本に近づいている」と話すと会場からは驚きの声が漏れた。
台湾の日本統治時代に台南水道などの土木工事に携わり、風土病であるマラリアの根絶に貢献した八田與一さんの功績にも触れ、土木の力が災害や伝染病などの脅威を軽減できることを紹介した。
東日本大震災が発生した14時46分にサイレンが鳴ると参加者全員で黙とうをささげ、犠牲者の冥福を祈った。最後に会場ごとに集まって記念撮影を行いイベントを締めくくった。警察庁によるとこれまでに確認された死者と行方不明者は1万8428人。避難所などで亡くなった震災関連死を含めると犠牲者は2万2000人を超える。
松永さんは「子どもたちから地震のメカニズムについて質問が飛び出した。震災の日に災害や土木についての話を聞くことで防災を意識するきっかけになれば」と笑顔を見せる。出水さんは「新型コロナウイルスの影響で多くのイベントが軒並み中止となる中で何かできないかとオンライン開催を思い付いた。平日でありながら東日本大震災の日に合わせて開催するするきっかけにもなった」と話し、初のオンライン開催を実施したことについて「多くの場所で同時に開催できるやり方として多くの発見があった半面、課題も多く見つかった。次回に生かしてブラッシュアップしていきたい」と意気込みを見せる。