長崎市外海にある出津・大野集落で明治期に住民の生活向上に尽力したフランス人宣教師マルク・マリ・ド・ロ神父の遺構「大平作業所跡」の保存修理が完了し、10月27日~29日、「ド・ロさまと歩くミュージアム」のオープニングイベントが行われる。
ド・ロ神父は当時、アジアでのキリスト教の布教に力を入れていたパリ外国宣教会に所属していたことから1879(明治12)年に出津地区に赴任。1882(明治15)年に出津教会堂を建設すると、フランスで培った医学や教育、土木の技術を生かし、産業の乏しい同地区の生活向上を目指して活動を始めた。若い女性の教育や職業訓練を行う養成所として教会近くに出津救助院を建て、隣にマカロニ工場を設置。マカロニやパン、綿織物など居留地の外国人向け商品を生産すると同時に、国内向けにピーナツ油を使ったそうめんの製造も手がけた。
出津・大野地区のド・ロ神父が残した遺構には、石灰と水、土をセメント代わりにして石を積み重ねて築いた「ド・ロ壁」が残されており、独特の雰囲気を醸す建物群は市の景観形成重点地区となっている。
大平作業所跡は1884(明治17)年に出津集落と徒歩1時間ほどの山間で大野集落に近い場所にド・ロ神父が開墾した段々畑に隣接。畑では小麦や綿花など工場で使う原料のほか、住民の食料となるサツマイモやそば、外国人居留地向けに当時珍しいジャガイモやトマト、茶などの作物を栽培。同作業場は畑で使う農耕牛の飼育などを行い、農機具などを保管する倉庫などとして建てられたもの。ド・ロ神父の手記に紅茶の製法が記されていることから茶を紅茶に加工していたことも分かっている。畑は昭和中期まで修道院や教会の信者らが耕作していたが、その後は手つかずのまま作業場とともに荒廃していた。工事では同作業所跡に残されたド・ロ壁の崩落を防ぐため家根とガラスで全体を覆い、保存するとともに周辺に山小屋やキャンプサイトを整備した。
ド・ロ神父の遺構を多く所有する「お告げのマリア修道会」(長崎市小江原4)では十数年前に旧出津救助院の修復を行い、歴史的建造物を見学するだけでなく、さまざまな体験ができる施設としてリニューアルしていた。
同修道会では地区に点在するド・ロ神父ゆかりの場所を歩いて巡ることができるよう整備し、宿泊や食などの体験を通して地区全体でド・ロ神父の精神や営みを感じるフィールドミュージアムを目指すプロジェクト「ド・ロさまと歩くミュージアム」を立ち上げ、4年ほど前から大平作業所跡の保存修理を進めていた。企画・運営を担う一般社団法人「ISHIZUE」(西出津町)を設立し、同施設のオープンで本格始動を迎えるプロジェクトでは、今後3年ほどをかけて周辺施設の整備を進めるという。
同修道会の赤窄須美子シスターによると「ド・ロ神父が開墾して以降、150年の歴史がある地区の営みがある。この地に訪れて体感できる場所にしたい」と意気込む。
オープニングイベントとして、27日は前夜祭、28日は竣工祝福式や中村大司教による基調講演を予定。29日は「ファミリーデー」体験イベントとして事前予約制で、パン焼き(700円)やお茶いり、木工(以上1,000円)の体験などができる。予約はホームページで受け付ける。期間中は出津地区の市営駐車場からシャトルバスを運行する。