ギャラリー併設醸造所「でじま芳扇堂」(住所)が3月25日で1周年を迎えた。
代表の日向勇人さんは清酒「鍋島」を手がける富久千代酒造(佐賀県鹿島市)で4期にわたって蔵人として従事。同酒造のオーベルジュ立ち上げに携わった妻・咲保さんと結婚後、2020年から東京・浅草初のどぶろく醸造所として開所した木花之醸造所で2代目醸造長として経験を積んだ。
2022年に長崎出身の咲保さんの祖父・銭上秀雄さんが倉庫業を営む傍ら店を構えていた骨董(こっとう)店跡で酒販店が営業していた建物を改装し、まちなか醸造所ギャラリー「でじま芳扇堂」の立ち上げを決めた。
同所で醸造するどぶろく「芳扇」シリーズは「古典に依拠しつつも現代的な酒質を志向」したという。熊本県阿蘇産のレイホウを使い、米の粒を残した「旨(うま)口」の「芳扇 友」や酒米「雄町」をできる限り溶かしきって辛口に仕上げた「芳扇 波」、中華、スイーツなど「油分や脂肪分の多いものとの相性がいい」という甘口に仕上げた「芳扇 雲」を定番としてラインアップ。昨年12月には「芳扇 雲」の製法で在来種である朝日と黒米のサヨムラサキを使った「芳扇 紫雲」を限定醸造したり、あえて酵母を変えることで味のニュアンスを変えた限定酒を発売したりするなどのチャレンジも繰り返してきた。
1周年を記念して限定醸造した「芳扇 友 Peace label」は北陸地方の代表的な清酒酵母である金沢酵母を使用。長崎に寄贈される千羽鶴を再利用した別注の手漉き和紙ラベルに一つ一つ手押しの版で銘とロゴを印字し、「平和の街・長崎から、芳扇が今日の喜びをかみしめるひとときを、そして明日をより良い日とするための力になれば」という思いを込める。「復興支援酒」として、売り上げから1本500円を能登半島地震の被災地の酒蔵へ義援金として寄付する。
月替わりで発売してきた「たすき」シリーズは長崎の在来野菜である黒田五寸ニンジンや白桃、キウイなど長崎県内各地の農家が育てた旬の食材を原料に使った季節酒。ふぞろいや過剰生産で廃棄されかけている食材を有効活用すると同時に、「酒を通して長崎の食材の魅力を発信できれば」と取り組んできたもの。
店内はどぶろくを主軸に、日本の食文化の根幹をなす「酒」「食」「器」を総合的に提案・体験できる醸造所ギャラリーとして焼き物なども展示。3月23日からは「どぶとあまのうつわ展」と題して酒杯だけでなく、カップや注器、酒わんなど13人の作家による200点ほどの作品を並べた展覧会を開いている。
3月31日には「酒を含め日本の文化に触れてもらうきっかけをつくりたい」と長崎市南公民館(浪の平町)で能楽入門イベント「祈りを醸すニッポンの技~能と醸より~」を企画。能楽の太鼓方とシテ方を迎え、能の解説や実演、トークセッションなどを行う。
「造り酒屋のない長崎市中心部でどこまで受け入れられるかという思いで立ち上げた醸造所。地元の方には贈答用などとして親しんでもらっている」と話す日向さん。12月には香港への輸出も始め、最近では「SNSや口コミなどでお酒を知ってもらい、『長崎の地酒を醸す醸造所』として訪れてもらうことも多くなってきた。お酒を通じて長崎を訪れるきっかけになるような醸造所を目指していきたい」と意気込む。
営業時間は10時~19時。火曜・水曜定休。