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長崎の老舗和菓子店の名物看板の補修完成-前回の補修から半世紀

クレーン車を使って取り付け作業中の補修済み看板

クレーン車を使って取り付け作業中の補修済み看板

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 今年5月から補修のために外されていた老舗和菓子店「岩永梅寿軒」(長崎市諏訪町、TEL 095-822-0977)の屋外看板が完成し、8月26日、同店に再び取り付けられた。

仮看板が取り付けられていたときの外観

 同店は1830(天保元)年創業で、現在の店舗は1902(明治35)年に建築されたもの。店頭に取り付けられた小さなブリキ製のマークは「旧・安田火災海上保険(現・損保ジャパン)」の社章で、同店のものを含め全国に2カ所しか現存しない。交差した「とびぐち」は延焼を防ぐため燃える家屋を壊す江戸時代の火消し道具の一つで、真ん中の縦棒は保険の英語「Insurance」の頭文字を表しているという。

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 今回補修した屋外看板は大正時代の桟橋架け直しの際、不要になった古い船板を利用して作られたもの。岩永徳二社長は「父が一度補修したことがあるが、私が中学生だったので50年は経過している。最近は特に劣化が激しく、看板の木くずがポロポロ落ちていたので不安で仕方なかった」と話す。今年5月、知人の紹介で専門業者に補修を依頼することになったという。

 補修を担当した伯龍工芸製作所の小林伯龍さんは「名物看板なので仕事柄気になっていたら、不思議な縁で補修の依頼が来た。相当劣化が激しかったので、本当は新しく作り直した方がいいのは事実。岩永社長にもそのように薦めたが、先祖から受け継いだ看板を守りたいという岩永社長の強い熱意に負けた」と振り返る。依頼を受けた小林さんらは、文化財の補修に使うものなど、この看板に適合する補修用の特殊塗料を全国から探し出すだけで20日以上かかったという。塗料は1回浸透しても劣化した部分から泡が出てくるため、1カ所ずつ泡を消す処理をしながら進めなければならず、穴が開いた部分についても、そのまま残すのか、自然な感じに埋めて補強するのかなど試行錯誤が続いた。使用した特殊塗料の重量だけでも100キロを超え、乾燥には約1カ月を要したという。雨による劣化を防ぐため新たに看板用の屋根を作り、全体の雰囲気を壊さないように屋根の銅板には緑青(ろくしょう)を吹かせた。

 「正直、勘弁してくれと言いたいくらい難しい仕事で試行錯誤の連続だったが、自分が生きているうちにこんなに面白い仕事をさせてもらえる縁に出会うことなどめったにない。世間では猛暑と敬遠されているが、依頼を受けてから完成までほとんど雨が降らず、暑い状態が続くのは看板にとっては最高の状態。しかも昔は岩永さんの店側に電柱があったらしいが、今は反対側にあるのでクレーン車が使えた。これも岩永さんたちの人徳かもしれない」と小林さん。

 取り付け作業は閉店後の20時ごろ開始。補修済み看板を載せたクレーン車が現場に到着すると、小林さんらは岩永社長に今までの作業経緯や仕上がり具合について細かく説明。実際に看板表面にも触ってもらった。仮看板が取り外されると、補修済み看板がゆっくりとクレーンで持ち上げられ、屋根の上の作業員と連携しながら取り付け作業が慎重に進められた。作業中、通行人らの中には足を止めて見物する人も多数見られ、中には携帯などで写真やビデオを撮る人もいた。現場で細かい修正をしながらの作業は3時間に及び、23時過ぎ無事作業が終了した。

 看板左側には「平成二十五年癸巳長月吉祥嘉辰令月」と補修に伴い追記されている。今年は干支(かんし)の「癸(みずのと)巳(み)年」に当たり、長月は9月の意味。めでたい兆しを意味する吉祥(きちじょう)に続き、「嘉辰令月(かしんれいげつ)」とは「いい日、いい月」の意味で、ともにめでたさを表している。「看板の雰囲気を壊さずに補修記録を追記できたと思う」と小林さん。

 岩永社長は「完成がずっと気になっていたが、これでご近所にも先祖にも顔向けできる。今日から安心して眠れる」と、取り付けられたばかりの看板を見上げてほほ笑んだ。