2013年公開の優秀な映画に贈られる「キネマ旬報ベスト・テン」の受賞作品が1月9日に発表され、長崎在住の漫画家・岡野雄一さんの原作漫画を映画化した「ペコロスの母に会いに行く」が第1位に選ばれた。
最終ロケで演技中の赤木春恵さん(手前左の黒い帽子は浜田毅撮影監督)
1919(大正8)年に創刊した映画雑誌「キネマ旬報」が、毎年「日本映画部門」「外国映画部門」それぞれのベストテンを選出する同賞。1924(大正13)年から授与が始まり、戦争で中断した1943(昭和18)年から1945(昭和20)年までの3年間を除いて毎年行われ、今回で87回目。米アカデミー賞(1929年)や世界三大映画祭の「カンヌ国際映画祭」(1946年)、「ベルリン国際映画祭」(1951年)、「ヴェネツィア国際映画祭」(1932年)よりも古く、世界最古の映画賞ともいわれている。
第1位となった同作品は、岡野さんが2012年1月に500部だけ自費出版した漫画が原作。原作本を読んだ映像プロダクション社長・井之原尊さんが映画化を持ち掛け、自費出版本の販売を手伝っていた音楽プロデューサーの村岡克彦さんと共に複数の映画会社に企画を持ち込んだが全て断られたため、クラウドファンディングなどで資金を集めながら協力者のネットワークを広げ、地道に保険会社やおむつメーカーなどの協賛企業を開拓。映画会社主導ではない商業映画として製作され、配給は井之原さんと以前から付き合いのあった独立系配給会社「東風」が引き受けた。昨年11月中旬から12月下旬にかけ全国80カ所以上の映画館で上映されたが、上映館がない地域から見たいという声が多数集まり、昨年上映できなかった地域で今後上映される予定もある。
本作品で初めて映画プロデューサーを経験した村岡さんは「この作品は原作自体が中央では全く知名度がないローカルな自費出版だったため、ほかの映画のような資金調達方法が取れなかったことが一番きつかった。ただ、原作のテイストをきちんと描ければ多くの支持を得られる自信は明確にあった。自分自身、長崎市に近い飯盛町の出身で認知症の家族もいたし、数年前に亡くなった父は若いころ酒乱で母に暴力を振るっていたこともある。どうしてもこの漫画を、この映画を全国の人に知ってもらいたいという思いだけで今日まで突っ走ってきた」と振り返る。「本当にうれしい。長崎から生まれた長崎弁の映画に協力してくれた全ての人たちに、心からありがとうと言いたい」とも。
表彰式は2月8日、東京・銀座ブロッサムで行われる。ユナイテッドシネマ長崎(長崎市尾上町)は受賞を記念して「凱旋(がいせん)上映」を決定。長崎ランタンフェスティバル(1月31日~2月14日)期間中の2月8日から同作品を上映する。