長崎市文化観光部文化財課は5月11日、旧外国人居留地の洋館群が残る「東山手・南山手地区」の魅力向上を図る取り組みの一環として、同地区内にある活水女子大学(長崎市東山手町)の学生らと共に洋館群を視察した。
視察に参加したのは活水女子大学健康生活学部生活デザイン学科の浜谷信彦准教授と学生ら5人。同地区内には大浦天主堂や旧グラバー住宅、旧香港上海銀行長崎支店など主に幕末から明治にかけて建築された多くの洋館建築が残されている。1990年、幕末に開かれた旧外国人居留地の街並みを守ることを目的に長崎市伝統的建造物群保存地区保存条例が制定され、翌年には国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。東山手地区に位置する同大学は1879(明治12)年、エリザベス・ラッセル宣教師により創立され、現在も校門の前には長崎市と地元NPOが協働管理運営するギャラリーカフェがある東山手甲十三番館があり、学生らは毎日それらの洋館群を眺めながら通学している。
長崎市は昨年から市中心部で和洋中の歴史的、文化的な風俗、景観などが残る5地区を軸に指定して今後10年間で市街地活性化を図る「まちぶらプロジェクト」に取り組んでおり、同地区もその一つに指定されている。今回はその一環として同大学の学生らに洋館群を視察してもらい、今後の取り組みについて同課職員らと意見交換を行った。
視察したのは南山手乙9番館(須加五々道美術館)、南山手8番館(南山手地区町並み保存センター)、南山手乙27番館(南山手レストハウス)、東山手洋風住宅群7棟(東山手地区町並み保存センター)、東山手十二番館(旧居留地史学歴史資料館)、東山手甲十三番館(NPOが市と協働管理運営する洋館カフェ)の6カ所。洋館は従来、個人や法人が所有する不動産である場合が多く、一貫して行政が管理するのは困難な面があったが、保存地区へ指定されてから整備が進み、視察した洋館は長崎市が管理し、さまざまな形態の施設として運用されている。
同課職員の高崎裕見子さんは、「洋館を活用しようという取り組みは以前から積極的に進めているが、まだまだ知られていない部分が多い。昨年から『まちぶらプロジェクト』が始まったことも追い風になるので、今回は若い女子大生の感覚でアイデア出しを手伝ってもらおうというのが狙い」と話す。
一行は最初に南山手乙9番館を視察。同館は現在、長崎市出身の画家で水墨画と西洋技術の遠近法を融合した「新日本画」を提唱して2008年に95歳で亡くなった、須加五々道(すか・ごごどう)さんの作品を展示する美術館として利用されている。その後、南山手8番館、南山手乙27番館、東山手洋風住宅群7棟を視察。東山手十二番館の会議室で意見交換会を行った後、東山手甲十三番館で洋館でのカフェ体験を満喫した。最初に訪れた3つの洋館の庭先には、「バラのまちづくり」の取り組みの一環として今年3月に植樹したバラが咲き見頃を迎えている。バラの植樹は今後ほかの洋館にも広げていくという。
浜谷准教授は「校門までの道が有名なオランダ坂なので、学生たちは毎日、この坂の石畳を登り、洋館群の情緒があふれる恵まれた雰囲気の中で過ごしている。ツアーでは、洋館それぞれの歴史やすてきな景観などの魅力を再発見できた。今回の視察は、今後続けていく取り組みのスタート地点だと考えている。学生たちは普段、企画やデザインを学んでいるので、実際にデザインとコトづくりを通して洋館群の魅力向上に貢献していければ」と意気込む。