長崎在住の介護福祉士・片田尚孝さんが呼び掛け、3月16日に開かれた「東日本大震災チャリティーコンサート」に約100人が参加した。
片田さんは本業の傍ら、長崎交響楽団のチェロ奏者として活躍している。2011年の4月初め、医療支援のため宮城県塩釜市に赴き足湯のボランティア活動などを行ったが、帰崎前日の激しい余震や壮絶な災害の医療現場に遭遇し、大きな精神的ダメージを受けた。一緒に医療支援に向かった仲間の中には精神的に耐え切れず退職した人もいたという。
昨年11月、チェロ仲間のつてで、チェロ奏者でもある東北大学の高橋医師が来崎。長崎県内での演奏による慰問活動に付き添う中で「これなら自分でもできる」と感じ始めていた片田さん。その背中を押したのはミュージシャン・伊藤銀次さんのミニコンサートだった。
テレビ番組「笑っていいとも」のテーマ曲の作曲者としても知られる伊藤さん。長崎の東山手甲十三番館(長崎市東山手町)でミニコンサートが開かれた2月12日、集まった20人ほどの聴衆の中に片田さんの姿があった。コンサート終了後、伊藤さんを囲んでの懇親会の席上、片田さんは同席した音楽仲間に「東日本大震災チャリティーコンサートをやりたい」と思いをぶつけ協力を得た。
「伊藤さんのコンサートを聴いて、人に寄り添う音楽というものが分かったような気がした。懇親会の会場であのようなコンサートをやりたいという思いがあふれてきた。気づいたら声を掛けていた。たくさんの人が応じてくれたことに感謝している」と振り返る片田さんは、もともと30年近くクラシック音楽の世界しか知らなかった。
2年ほど前、自分一人で震災チャリティーコンサートを行ったことがあるが精神的疲労が大きかったという。コンサート後、突然体調を崩し2週間ほどの入院生活を余儀なくされた。そのことがさまざまなジャンルの音楽仲間と知り合うきっかけになり、今日の交流につながった。「もし、あの出来事がなかったら今のような自分はいない。以前の自分とは大きく変わったことを感じる。ジャンルは違っても一緒に音楽を楽しむ仲間ができたことがうれしい」とも。
片田さんの呼びかけに30人の音楽仲間が応じ入場者は70人を超えた。小さなコンサート会場はおよそ100人の熱気であふれた。集まった収益金は4万9572円に達し、そのうち1万5100円がバザーによる売上げ。片田さんは知人を通じて南三陸町に贈るという。「小さな会場が笑顔であふれた。本当にやってよかったと思う。これをステップに音楽を生かした活動を仲間たちと一緒にもっと広げていきたい」と意気込む。