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戦後長崎が舞台の映画「祈り-幻に長崎を想う刻-」 ダブル主演の女優高島礼子さんと黒谷友香さん、松村克弥監督に聞く

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 戦後の長崎を舞台にした映画「祈り-幻に長崎を想う-」が8月20日から全国順次公開されることが決まった。8月13日にはユナイテッド・シネマ長崎(長崎市尾上町)と佐世保シネマボックス太陽(佐世保市)で先行公開される。

 

 

 2020(平成31)年1月に埼玉県深谷市や茨城県笠間市、千葉県市川市での撮影がスタ-トした同作。2月には撮影の舞台を長崎県内に移し、館内市場(長崎市籠町)や長崎電気軌道浦上車庫(大橋町)のほか、波佐見町立小学校や川棚町片島にある旧海軍魚雷発射試験場跡での撮影が行われ、同年2月11日にクランクアップを迎えた。

 

 

 ダブル主演を務める「鹿(しか)」役の女優・高島礼子さんと「忍(しのぶ)」役の黒谷友香さん、そして松村克弥監督に話を聞いた。

 

 

高島礼子さん

—二面性を持つ役柄を演じてみてどうでしたか?

 

人間って基本、いつの時代も多面性はあると思う。今回の「看護師」と「娼婦」という極端な二面性も、この時代だからというわけでなく、いつの時代でも女性が持っている多面性なのかなと思います。

 

 

—「看護師」と「娼婦」の二面性という設定について驚きませんでしたか?

 

このくらい極端な方がかえって分かりやすいかなと思いました。どちらも「自分のことよりも他人の幸福を願う」というキリスト教的な考えでいうなら共通していると思いましたので、「娼婦」「看護師」とあえて芝居の分け方をしていません。

 

—主人公を「天使」と表現されていましたが。

 

キリスト教徒の考え方と、被爆者差別を受けてそれを乗り越えた彼女だからこそ人に優しくできるのかな。「許す」という事がキリスト教の根本の考え方であり、今回の原爆でも「許す」「許さなければ先へ進めない」「でも忘れない」という共通した考えがあると思います。

 

—高島さんが演じた中で見どころは?

 

「看護師」を目指した人間が、他人の役に立ちたいと思った時に結果的には「娼婦」になり、死にゆく人に対して何ができるのだろうという、この時代だからこその人間関係が、「鹿」としては見どころです。人が居なくなったときに、男性は子孫を残そうとして、女性はそれを守ろうとする強さがある。だから今回は女性2人が主人公ではないのかなと。

 

取り壊されようとするマリア像を守ろうと頑張る主人公女性2人を、周りで男性が助けてくれるという縁の下の力持ち的な役割になっている。普通は被爆地を立て直すのは男性となってしまうが、今回は女性ならではの立て直し方で描かれています。

 

—被爆75周年のタイミングで、この作品が製作されたことについて

 

先日長崎大学医学部や浦上天主堂、原爆記念館にお邪魔してみて感じたことは「長崎を最後の被爆地にしよう」という思い。これがこの作品のメッセ-ジ担っていると思う。

 

戦争映画ってたくさんありますが、それを若者が見て「かっこいい」と思われてはいけない。「絶対いやだよ」と思われないといけないので、辛い思いをしたということを赤裸々に表現し伝えないといけないと思いました。

 

—長崎で撮影したことについて

 

やはりそこに来ないと伝わらないことがあるので、実際長崎に来てみて東京にいた時と違う気持ちで撮影できました。

 

—長崎県民はもちろん原爆に対して意識が高いですが、それを県外の方に発信していただけてうれしいです。

 

被爆地というのは、長崎の問題だけではなく世界の問題。日本中の人たちが「被爆国」としてメッセ-ジを伝えてくことは大切。許すけれど、忘れてはいけない、繰り返してはいけないというメッセ-ジをもっとアピ-ルするべきだと改めて感じた。まだ戦後76年しかたっていないので。

 

—マリア像がしゃべり出すシ-ンについて

そのシ-ンを撮る前は1時間くらい、みんなでディスカッションしました。ドラマティックにするより、もっとリアルにしたかった。信仰心がある人から見ると抵抗はないが、信仰心がない人からしたらいきなり石がしゃべり出すと違和感があります。そこをどう表現するか、みんなでよく話し合いました。

 

—鹿さんから見る長崎と、高島礼子さんから見る長崎とは?

鹿は長崎という土地に先祖がいてたくさんの思い出があり、何の迷いもなく愛すべき長崎だと思う。高島礼子が生まれたのが昭和39年で、原爆が落とされてからわずかに20年足らず。子どものころには特に被爆地としてより、「忘れてはいないがちゃんと先に進んでいる」というのが長崎のイメ-ジでした。「よくぞここまで、日本人ってすごいな」と感じます。

 

 

黒谷友香さん

—「忍」さんとしての見どころは?

 

全体的なテ-マは「戦争」なんですが、忍の目線からいうと「戦争」以外に忍が抱えなきゃいけなかった事件があって、それを乗り越えていくというところが演じていて楽しかった。

 

 

—W主演は難しかったですか?

 

あまり絡むシ-ンがなく、それぞれ「鹿の世界」「忍の世界」があり、たまに重なる部分でご一緒できるのが新鮮でした。

 

—今は「戦争」が遠い世界のような感じですが、実際その時代を演じてみて何か感じたことは?

 

演じたり、調べたりしていくうちに知らなかった事がたくさんあって、この作品を「戦争映画」としてではなく「人間愛」とか「平和」という目線で見てもらいたいです。

 

—この映画で描かれているような人が実際に実在していたなど、今までフィーチャーされない知らなかった一面があったかと思いますが…。

 

例えば原爆を日本が作ろうとしていたとか、ほとんどの人が知らなかったようですね。現実にあったことをうまく物語に含めて、役のセリフとして入れたりしています。映画を見終わってから今までとは違う目線で世界を見れるようになる作品になっています。テ-マは重いですが、日本人なら知っていた方がいい内容ではないかと思います。

 

 

—最後の被爆都市・長崎で撮影した感想は?

 

怖かったです。飛行機に乗って、長崎に近づくと「この辺で爆発したのかな」「落とした人はどんな気持ちで下を見ていたのだろう」とか考えていました。爆心地公園にも行きましたが、今はとてもきれいな風景になっていて、ほんとに原爆が落とされたとは思えないほどの復興力だなと感じました。

 

—長崎での裏話はありますか?

 

長崎の人が出演してくださったり、炊き出ししてくださったり、園児の役で子どもたちが出演したりと支えていただきました。

 

—長崎のイメ-ジに変化はありましたか?

 

今の私が感じるのは「よくここまで復興したな」と思います。以前だと、異国情緒豊かな街だなという印象でしたので。

 

—映画を見てくださる方にメッセ-ジをお願いします。

 

登場人物たちは、それぞれいろんなことを抱えていて、皆さん誰かしらに重なる部分はあると思います。何か悩んだり、迷ったりしている人が見てくださったときに、少しでも勇気とかを感じてもらいたいです。

 

松村監督

 

—長崎での撮影期間はどれくらいでしたか?

 

およそ1週間くらいでした。

 

—長崎で撮影してみていかがでしたか?

 

自分でも納得のいく作品になりました。原作も素晴らしいですが、脚本、キャストが素晴らしい。それぞれの俳優さんがリアリティーを感じる演技をしてくれてとても良かったです。

特に長崎で撮影して、出演者の演技がより一層高まったなと感じます。ラストシ-ンを最後に撮るということは実はなかなかできないのですが、今回はそれができたことが非常にいいなと思っています。

 

—最後の被爆地・長崎ですが

 

そこが一番伝えたいところです。作中に若き日の永井隆さんが出てきていますが、永井さんが言うように「長崎が最後」というのを伝えたいです。

 

—出演した俳優陣について

 

僕はもともと最初の1テイクでOKにしたいタイプなんです。最初の演技が「新鮮で一番いいな」と思っているのですが、今回は特に俳優さんがそれを分かってくれていて、ほとんど1テイクで撮っています。

 

 

 

—女性目線の作品について

 

僕は女性主役の映画ってあんまり撮ったことがないのですが、今回のような女性目線の着眼点は素晴らしいなと思います。今までの「長崎の被爆・戦争を考える映画」とは一味違う作品になったと思います。

 

今日はいろいろと話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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