長崎市内の救護施設で3月27日、施設職員として働く新婦だけが何も知らない「サプライズ・ウエディング」が行われた。
サプライズ結婚式を計画したのは新婦の職場仲間・山口明子さん。山口さんは同施設で働く傍ら、いろいろな「サプライズ」に仕掛け人として参加した経験を持つ。最初に参加したのは所属するイベント団体主宰者の母親の喜寿をサプライズで祝うという企画。次は再婚した仲間の一人をサプライズで祝った。3回目には「加トちゃん」の仮装をした仲間たちから、山口さん自身が思いがけない誕生日サプライズを受け取った。
「私自身もサプライズに驚き、みんなからの大きな愛を感じて心が震えた」と山口さん。イベント団体主宰者・小泉容子さんが「正直、サプライズを仕掛ける方はかなり大変。相当な熱意とノウハウがないと誰でもできるものではない。とはいえ、仕掛ける側も仕掛けられる側も、みんなが心から笑顔になれるサプライズは本当に素晴らしい。これに情熱を注ぎたい」と、サプライズをビジネスとして請け負う「ハッピーサプライズ」を立ち上げたところ、最初の依頼人が仲間の山口さんだった。
山口さんが依頼したのは職場の同僚・浦越智恵子さんに対するサプライズ。山口さんらの職場は救護施設。さまざまな困難を抱える入所者たちに寄り添い励ます仕事を、共に励まし合いながら担ってきた。浦越さんは結婚が決まっており、いずれ静岡に嫁いでいく同僚への感謝と、「特別な思い」が日増しに強くなったという。
「誰でも人生は一期一会。もしかしたら遠くにお嫁に行く彼女とは、もう二度と会うことができないかもしれないと強烈に感じた。そう思うと何かしなければという思いがあふれて、居ても立ってもいられなくなった。入所者の人たちにも見守ってほしかったので、職場でのサプライズを依頼した」と振り返る。
山口さんたちは職場の同僚や上司、浦越さんの婚約者や両親、そのほか多くの人たちの協力を得て本番までのおよそ1カ月間、浦越さんに気づかれないように細心の注意を払いながら、極秘で準備を進めてきたという。施設では浦越さんの勤務最終日に「BB's(ビービーズ)」が歌を披露するという「架空の音楽イベント」を設定。ビービーズは小泉さんらが結成した音楽パフォーマンスグループ。山口さんは浦越さんを信用させるため、事前に用意したビービーズのライブイベントに連れ出し、ビービーズのメンバーは浦越さんからサプライズに必要な情報を聞き出していた。
サプライズ当日、音楽イベントに期待する入所者たちに施設長がビービーズを紹介。入場曲「I will follow him(私は彼について行く)」を歌いながら入場したビービーズのメンバーらは、浦越さんをステージ側に呼び出しインタビューを始めた。そこへ突然、職員らが長さ8メートルの派手な色のカーテンを持って登場。ライブが続く中で自分だけが突然カーテンで遮られ、強制的にドレスに着替えさせられた浦越さんは、「え?何?どうしたの?」と驚くが全員無視。「いいから、いいから」とヘアメークを施され、数分でウエディングドレス姿に変身。完成した新婦は椅子に座らされた。
ライブが終了すると、ブルーノ・マーズの「Marry you(ねえ、君と結婚したい)」が流れ浦越さんを囲んでいたカーテンが開いた。浦越さんの目の前に現れたのは、真っすぐに伸びたレッドカーペット。浦越さんの目から大粒の涙がこぼれた。曲に合わせて次々にダンスで祝う仲間たち。仲間の一人からブーケが手渡され、花道の中央に誘導された浦越さんは目頭を押さえながら仲間たちのダンスを見守った。
音楽が頂点に達した時、垂れ幕が開いた先に現れたのは静岡にいるはずの婚約者・城臺(じょうだい)秀樹さん。座ったまま驚く浦越さんの目から涙が止まらなくなった。城臺さんはマイクを握り、同曲最後のパート「It's a beautiful night.We’re looking for something dump to do …(すてきな夜に、おかしなことをしようよ…)」と歌いながら浦越さんにゆっくり歩み寄った。
「marry you (君と結婚したいよ)」。最後の歌詞を歌い切り、浦越さんを椅子から立ち上がらせた城臺さんはひざまずき、婚約者の瞳を見つめながら「結婚してください」と短い言葉を投げ掛けた。浦越さんはほほ笑みながら小さくうなずき、「喜んで」と答えた。その場に居合わせた全員の拍手が会場をいつまでも包み込んだ。
浦越さんは「今まで生きてきた中で一番びっくりした。本当にありがとう」と、山口さんに感謝した。
「正直、職場でやるなんて言わなきゃよかったと何度も思った。しかし、やらなかったら一生後悔したと思う。今日と同じ明日が訪れる保証は誰にもない。ぼろぼろ泣いている花嫁を見て、これまでの時間が全て幸せなものに変わった」と山口さん。「今回のサプライズを一緒にたくらんでくれた仲間たちに心から感謝したい。そして、これからもハッピーサプライズの活動を通じて『自分はどうせ報われない』と思っている人たちに『あなたを愛する人がちゃんといるよ』と伝えたい」とも。