長崎県美術館で映画「この子を残して」上映会 被爆70年記念で企画

スタッフの山田秀雄さん

スタッフの山田秀雄さん

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 長崎県美術館(長崎市出島町)で8月7日、映画「この子を残して」無料上映会が開かれ、抽選で選ばれた多くの市民が映画を楽しんだ。

座談会の様子

 同上映会は長崎文化放送(NCC)OBの一人が「被爆70年の節目に自分たちも何かできないか」と呼び掛け、長崎新聞社のOBらも参加して企画されたもの。両社に縁のある人や企画に賛同する多くの人たちの協力を得て、両社が共催する形で実現した。それぞれのメディアを通じて告知したところ、予想をはるかに上回る応募が殺到。やむを得ず抽選を行い、整理券のハガキを送った。同館2階の会場前にはハガキを手にする人たちの長い列ができた。

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 医師・永井隆博士の同名著書を元に山田太一さんが脚本を書き、木下恵介監督で1983(昭和58)年に制作・公開された同作。主人公は旧制長崎医科大学(現在の長崎大学医学部)で放射線医学担当の助教授だった永井博士本人。第二次世界大戦前からレントゲンによる放射線の影響で被曝しており、1945(昭和20)年6月には白血病と診断されて余命宣告も受けていた。永井博士は同年8月9日11時2分、勤務先で原爆に被爆したが重傷ながら助かり、妻・緑さんは自宅で帰らぬ人となった。作品では長男・誠一(まこと)、次女・茅乃(かやの)の2人の子どもたち(長女と三女は夭折)を残して、まもなく死んでいく悔しさと、戦争で死ぬことの悔しさを訴えている。

 キャストは永井博士を加藤剛さんが、妻・緑さんを十朱幸代さんが、それぞれ熱演する。出演者はほかに淡島千景さん、大竹しのぶさん、神崎愛さん、麻丘めぐみさんなど。永井博士は1951(昭和26)年5月1日、43歳の若さで死去した。

 劇中、被爆前の浦上天主堂や永井博士が住んでいた上野町一帯を再現するため、1億5千万円の予算が投じられた。佐世保の針尾工業団地(現在のハウステンボス)を使って巨大なオープンセットを製作し、面積を表す基準に使われた後楽園球場19個分の広さ(当時)だったという。焼野原となった街に、幼い誠一さんと淡島さん扮(ふん)する祖母(緑さんの実母)が緑さんの遺骨を探しに行くシーンでは、会場のあちらこちらからすすり泣く声が聞こえ、その声は上映が終わるまで続いた。

 上映後には座談会が開かれ、永井博士の主治医・朝長正充医師の長男で、元長崎原爆病院院長の朝長万左男さんと、誠一さんの長男で永井博士の孫に当たる永井徳三郎さん(永井隆記念館館長)が登壇した。朝長さんは「2歳だったので記憶にないが、私も崩壊した西坂の家(現在のNHK長崎放送局付近。爆心地から2.7キロ)の梁(はり)と梁のすき間から母親に助け出されて諏訪神社に逃げ込んだそうだ。朝長家と永井家は家族ぐるみの付き合いで、誠一さんを兄のように慕いながら育った」と振り返る。同時上映された「長崎の鐘」が完成した1950(昭和25)年、永井博士が晩年を過ごした如己堂(上野町)で開かれた試写会の様子について「あまりに人が多くて、やっと座った場所がスクリーンの真下。巨大な映像を下から見上げたことを鮮明に覚えている」と話し、観客らを笑わせた。「永井先生が寝転がるのを私は面白がって真似していた。そのことは先生の著書にも書かれている」と紹介。朝長さんは永井博士に対する自身の思いを熱心に語った。

 徳三郎さんは亡父・誠一さんについて「口数少なく、何か怖い存在だった。原爆のことも父からはほとんど聞いたことがない。叔母の茅乃(かやの)も同じ。いろいろ複雑な思いがあったのだろう」と振り返る。誠一さんは時事通信社の記者を定年まで勤め1998(平成10)年、永井記念館館長に就任。新しく「永井隆記念館」にリニューアルされてからも引き続き館長を務めたが2001年4月4日、66歳の誕生日に急逝した。徳三郎さんは誠一さんの館長就任に伴い、横浜市から長崎市に移住。長崎では就職せず父を陰から支え続けていた。父の急逝から半年後、徳三郎さんは35歳で新館長に就任した。

 会場には茅乃さんが幼いころ、散髪を担当した山川勝美さん(80)の姿も。1950年から見習いに入った理髪店で茅乃さんの「おかっぱ頭」を担当した山川さんは、「おかっぱは簡単なように見えるが実は一番難しい。当時は私もまだ10代。慣れなくて緊張した」と思い出を語った。作家となった茅乃さんは2008年2月2日、肝細胞がんのため亡くなった。享年66歳。翌日は永井博士の生誕100周年に当たっており、多くの関連行事に関わっていたという。

 映画を見終わった50代の参加者は「満席の会場だったが、戦争体験者と思われる年代の人たちが目立った。多くの人たちが感情移入し、中には嗚咽している人もいた。確かに素晴らしい映画ではあったが、ビデオを借りて一人で見ていたなら絶対に体験できないこと。上映会が長崎以外の場所だったら、なおさらだろう。実際に体験した者と頭の中でしか体験していない者との決定的な差を、まざまざと見せつけられた思いがした」と感想を語った。

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