長崎大学インフラ長寿命化センター(長崎市文教町)が開発した「軍艦島3Dプロジェクト」が9月29日、グッドデザイン賞を受賞した。受賞対象者は長崎市と長崎大学。
公益財団法人日本デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞は、優れたデザインに対して毎年贈られる賞で、日本では総合的デザイン評価・推奨の仕組みとして広く認知されている。工業製品からビジネスモデル、イベント活動など幅広い領域が対象。
道路や橋梁など、長期間にわたって使われるインフラの長寿命化を研究している同センターは、道路などの維持管理を補佐するための資格「道守(みちもり)」制度を考案し、講習会などの普及活動を続けてきた。同制度は現在、国土交通省をはじめ全国の自治体関係者や関連企業などから大きく注目されている。
人が近づけない危険な場所の撮影など、もともとはインフラの維持管理のために開発した撮影技術を応用した同プロジェクトは昨年、長崎市からの依頼で3Dレーザスキャナやドローンによる空撮画像から「軍艦島のまるごと3DCG」を製作した。この3次元映像は、松田浩センター長の指導により、建物の高さや幅、コンクリートのひび割れ、崩壊、海水や波で浸食された地面の深さなどを正確に実測記録した3Dデータに基づいており、観光コンテンツや映像作品、3Dプリンターを利用したグッズ製作などに幅広く応用できるという。
同センターの出水享さんは長崎大学工学部在学中、「友だちと一緒に長崎半島の海岸から端島(通称=軍艦島)を見た時、あまりの迫力に圧倒された。当時は上陸禁止だったが、いつか上陸したいと思った」と振り返る。卒業後、道路などの維持管理のための計測会社に就職した出水さんは2008(平成20)年、母校で「道守プロジェクト」が始まることを知り、「今まで習得した技術が役に立つはず」と4年半勤めた同社を円満退職して同センターに入所した。
「軍艦島の3D化では以前の職場の人たちに人的にも技術的にも応援してもらっている。本当にありがたい」と出水さん。プロジェクトチームがドローンなどを使って撮影した画像はおよそ2万枚。その中から、約10%の使える画像を選び出す「途方もない忍耐作業」を経て、さまざまな加工の末に完成したという。出水さんは「分かりやすく言うと、立体写真のように撮影位置が異なる場所から被写体が重なる2枚の画像を組み合わせる。しかし写真同士の相性があって、選ぶこと自体がかなり大変だった。現在のパソコンの画像処理能力に合わせて、わざと画像の解像度やデータ容量をかなり抑えている。性能が良くなれば、今後さらに高画質化させることは可能」と説明する。
「チーム全員の力で『評価される素晴らしい成果物』を作り出したから受賞できたと思う。これからも社会に役立つ研究を続けたい」とも。