ユネスコ世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産の一つで、軍艦島近くにある旧高島炭鉱(長崎市高島町)に勤務していた元鉱員・岩崎健典さん(75歳)が8月10日、自身の体験をつづった手記「地獄の底は頭の上」を出版した。
戦時中に長崎原爆の爆心地近くで生まれた岩崎さんは1945(昭和20)年6月、2歳で両親と共に疎開して被爆を免れた。中学校卒業後は熊本県内で最初の仕事に就くが6カ月ほどで退職。その後も会社員や自営業など、さまざまな職業を経験し、「食べること、お金で家族を苦労させることは絶対しない」と決めていたという。
当時を振り返り、「何も考えずに転職すれば、収入は落ちてしまう。収入を上げようしたら仕事の危険度が上がっていった。その最たるものが高島炭鉱での仕事。最初に働き始めた時は、体重50キロに満たない細い体だった。このままでは勤まらないと思い、日々、6キロの鉄アレイを持ってトレーニングした」と笑顔で話す。
岩崎さんは「最初から本にしようと思っていたわけではないが、70歳過ぎてから何か残したいと思い、思い入れの強い炭鉱の話を娘に語り、文章にしてもらった。漁師の人たちは『板子一枚下は地獄』と言うが、海底炭坑で働いていた自分たちは地獄の底さえ頭の上にあった」と同書のタイトルに込めた思いを話す。
同書の監修を担当した岩崎さんの長女で、ふんどし専門店「TeRAYA」(大浦町)の店主・かのこゆりさんは「つくり話だと思われたくないので、控えめに、内容を削って書いたが、作り話みたいだと言われる。製作に1年かかったが、多くの人たちに面白いと言っていただき、とてもうれしい」とほほ笑む。
表紙には高島炭鉱のシンボルだった「二子竪坑(ふたごたてこう)」が描かれ、軍艦島の生活を最先端技術で疑似体験できる「軍艦島デジタルミュージアム」(松が枝町)の久遠裕子さんからの寄稿文を掲載する。ミュージアムには岩崎さんが寄贈したつるはしや作業靴、50キロを超える巨大な石炭などが展示されているほか、岩崎さんが軍艦島に上陸した際のインタビュー映像を見ることができる。
同書は新書版サイズ、96ページ。価格は999円(データ本は777円)。インターネット書店「テラヤ書房」で販売するほか、9月1日からTeRAYA、軍艦島デジタルミュージアムなどで取り扱う。