戦後の長崎を舞台にした映画「祈りー幻に長崎を想う刻ー」が2月11日、クランクアップを迎えた。
撮影セットの前でインタビューに応じる黒谷友香さん(左)と高島礼子さん
同作は長崎市出身の劇作家・田中千禾夫(たなかちかお)さんの戯曲「マリアの首」が原作。1957(昭和32)年、原爆で倒壊した浦上天主堂の保存を巡って議会が紛糾する長崎を舞台に、主人公となる被爆したカトリック信者の女性2人が壊れた被爆マリア像の残骸を安全な場所に移し保存しようとする物語。
メガホンを取った松村克弥監督によると、1月中旬から埼玉県深谷市や茨城県笠間市、千葉県市川市でのロケがスタート。1週間ほど前から撮影の舞台を長崎県内に移し、長崎市にある館内市場や長崎電気軌道浦上車庫で撮影を行ったほか、波佐見町立小学校や川棚町にある旧海軍魚雷発射試験場跡で撮影を行った。
プロデューサーの亀和夫さんは「戦争を知る世代が少なくなってきている戦後75周年という節目に戦争と原爆の悲惨さを後世に伝えたい」と話す。
松村監督は「太平洋戦争中の日本を描いた映画は数多くあるが、特攻隊のような国のために命をささげてはかなくも散っていく姿を美しく描いたものが多い。本作は社会の底辺で戦争の悲惨さを後世に伝えようと奔走する2人の女性にフォーカスしている。話の面白さや人物が魅力的で平和祈念のテーマが伝わりやすい作品ではないか」と笑顔を見せる。
2015(平成27)年に戦後70周年企画として桜花の特攻隊員をテーマに制作された「サクラ花-桜花最期の特攻-」でも監督を務めた松村さんは「実際に特攻隊が出撃した現地を訪れたことで感じる人々の思いや重みがある。今作でも長崎を訪れた出演者たちが空き時間を使って自主的に原爆資料館や浦上天主堂などを訪れ、75年前に原爆が投下された現実に向き合うことで演技にもより深みが増したのではないか」と話す。クランクアップを長崎で迎えられたことについて、「ラストシーンを最後に撮影できた数少ない現場となった。長崎の人々の平和への思いを作品に映し出すことができたのではないか。この思いを全世界に向けて発信していきたい」と笑顔を見せる。
映画は5月にニューヨーク国連本部で試写上映を目指しているといい、2020年夏の公開を予定している。