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長崎大学の土木学者が軍艦島3次元映像を更新 老朽化進む姿も

軍艦島の3次元CG画像

軍艦島の3次元CG画像

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 長崎大学(長崎市文教町)職員で工学博士の出水享さんが8月18日、「軍艦島3Dプロジェクト」の最新の3次元CG映像を公開した。

鉄筋がむき出しとなり建物の崩落が進む島内(2021年6月撮影)

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 出水さんらは2014(平成26)年8月19日に初め軍艦島3次元映像の制作に成功し、翌年9月にグッドデザイン賞を受賞。老朽化が進み年々崩落などが進む世界遺産・軍艦島の姿を写真測量やICT施工といった危険を伴う場所のインフラの維持管理のために開発した撮影技術を応用して記録すると同時に、端島炭坑跡(軍艦島)の保存管理や整備活用に資する資料とする目的で同プロジェクトを進めている。建物の高さや幅、コンクリートのひび割れ、崩壊、海水や波で浸食された地面の深さなどを正確に実測記録した3Dデータに基づいて無人飛行機・ドローンで撮影した約3万枚の画像を基に合成した映像は、現在の島の姿を立体的かつ忠実に再現している。映像の公開後も年に1~2回の調査を行い、最新映像の更新を行っている。

 出水さんは2008(平成20)年、4年半務めていた建設コンサルタント会社を退職して大学に再就職。これまで習得してきたインフラ維持管理の技術を継承するための講習会などを行い技術者の養成に携わるとともに、ユニット「噂(うわさ)の土木応援チーム デミーとマツ」を結成し「デミー博士」として子どもたちに土木が果たす市民の生活や防災についての講演やイベントも行う。学生時代に初めて見た軍艦島の迫力に圧倒され、当時は上陸禁止だったが「いつか上陸したい」と思っていたという出水さん。軍艦島の保存管理や整備活用をはじめ、観光コンテンツや映像作品など幅広く応用できることから、以前の職場からも人的にも技術的にも協力を得ながら同プロジェクトに取り組んできた。

 2015(平成27)年に「明治日本の産業革命遺産」として世界遺産登録され、日本の近代化を支えた石炭の歴史を今に伝えている軍艦島。1916(大正5)年に建てられた現存する日本最古の鉄筋コンクリート(RC)造りの高層アパートといわれている30号棟をはじめ、エネルギー政策の転換で無人となり、島に残された炭鉱の設備や堤防、建物などの建造物の老朽化が近年急速に進んでいる。

 「毎年襲ってくる台風で外観の崩落が進んでいるだけでなく、建物の内部では床が崩落するなど刻一刻と崩落が進んでいる。RC造りはコンクリート内部の鉄筋が塩害でさび始めると老朽化に歯止めをかけることは困難」と出水さん。コンクリートが部分的にはがれ落ち、鉄筋がむき出しとなっている箇所が多数見受けられ、「これから加速度的に老朽化や崩落が進む」と言葉を詰まらせる。国や長崎市では優先度を決めて文化財として保存に取り組んでいるものの建物の老朽化を食い止める手だてがなかなか見つからないことから、「画像データを記録しておけば今後、技術が進化することでより高精度な3次元CG映像を作ることも可能になる。せめてバーチャルでも軍艦島の姿を後世に残しておくために取り組みを続けていきたい」と意気込む。

 サイトでは3次元CG映像のほか、一般は立ち入りが禁止されている上陸禁止エリアの映像を含むオフショット映像も見ることができる。

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