長崎市外海地区が発祥の「かんころ餅」の原料となるかんころ作りが現在、最盛期を迎えている。
かんころ餅は半ゆででにしたサツマイモを混ぜこんだ餅の一種。江戸時代にキリシタンの取り締まりが厳しかった大村藩の城下から遠く、比較的寛容だった佐賀藩の飛び地もあったことから潜伏キリシタンが多く住んだ同地区。険しい山がそのまま海に落ちるような地形で、作物が取れにくかったことから正月に食べる餅をかさ増しするためにサツマイモを加えたことが始まりとされている。
かんころ餅に加えるサツマイモは「かんころ」と呼ばれ、皮をむいたサツマイモをスライスしてゆで、天日干ししたもの。もともとは冬期の保存食として作られていた。
同地区の出津集落の谷間で「出津の谷(しつんたに)」と呼ばれる場所にある「出津農楽舎」(長崎市西出津町)は郷土料理として伝わるかんころ餅を原料のサツマイモや餅米の栽培から手がけ、製造販売するとともにカフェとして楽しみ方を提案したいと店主の杉山和利さんと妻・千晶さんが昨年1月にオープン。無農薬・無添加にこだわり、サツマイモを品種ごとにかんころ餅にして数種類を用意。品種ごとの味わいを楽しむことができる。
店の庭先にある干し場では完成間近のかんころが海から吹き上げる谷風に揺れる。干し場で一つ一つかんころのでき具合をチェックする杉山さん。「外海では包丁を台座に据えた『芋かんな』と呼ばれる道具で芋をスライスし、大釜でゆでて天日干ししてきた。現在では機械化した工場で大量生産された干し芋が使われることも多い」と話す。
杉山さんによると「かんころ餅というと五島の特産品というイメージがあるが、外海に暮らす潜伏キリシタンが代々作ってきたもの。迫害を逃れようと外海から海を渡ったキリシタンが五島に移り住んでからも作り続けてきたが、発祥の地は外海とされている」という。
外海地区では家ごとにかんころ餅のレシピがあり、各家庭の味を伝えながら作り続けてきた。近年ではかんころ餅を作る家庭も少なくなってきていることから、杉山さんは「郷土の味を守り伝えていきたい」とかんころを持ち込んでもらい、オーダーメードでかんころ餅に仕上げるサービスもスタート。地元の子どもたちのかんころやかんころ餅づくりの体験も受け入れている。
杉山さんは「代々、この地に伝わってきた味を守るとともに、かんころ餅の魅力を多くの人に伝えたい」と意気込む。
営業は土曜・日曜・月曜の11時~17時。火曜はかんころ餅の販売のみ行う。