
長崎が舞台の映画「遠い山なみの光」の試写会がTOHOシネマズ長崎(長崎市茂里町)で行われ、石川慶監督や主演の広瀬すずさん、吉田羊さんの3人が登壇し、舞台あいさつを行った。
長崎出身のノーベル文学賞作家・カズオ・イシグロさんの処女作として1982(昭和57)年に「A Pale View of Hills」として刊行されたヒューマンミステリー小説を映画化した同作。1980年代のイギリスに暮らす女性が戦後間もない1950年代に長崎で暮らしていたことを回想するストーリーで、主人公・悦子が「近頃よく見る」という夢の内容を語り始めるところから物語が始まる。1950年代に傷痍(しょうい)軍人の夫・二郎と団地に暮らす悦子を広瀬さんが、1980年代の悦子を吉田さんが演じる。1960(昭和35)年に5歳で渡英したイシグロさんの幼少期の長崎での記憶を元に戦争の記憶や女性の自立を描く。日本では「女たちの遠い夏」として刊行され、後に「遠い山なみの光」に改題していた。
日本・イギリス・ポーランドの3カ国合作による国際共同製作で、2019年に「蜜蜂と遠雷」で日本アカデミー賞優秀作品賞などを受賞した石川慶監督がメガホンを取り、広瀬すずさんが主演を務めた同作。5月の第78回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に正式出品。国内では8月7日に東京で行われた完成披露試写会に続いて地方では初の試写会となった。
上映後に登場した石川監督らは撮影や舞台となった長崎への思いを話した。長崎を訪れたのが2度目という広瀬さんは「撮影では長崎に来ることができなかったが、主人公・悦子が生きた場所という目線で、ここにしかないものを肌で感じることができたと思う。『悦子』として見落としたものがあるのではと不安に感じるほどエネルギーあふれる街だと思った」と話した。撮影の準備段階から何度も長崎に足を運んできたという石川監督は「被爆80年ということで被爆された方の話を聞く機会が貴重だった」と振り返る。
全編英語での出演に初挑戦した吉田さんは「ひと月前に現地入りして英語の発音矯正と同時にホームステイすることで役作りをして撮影に臨んだ」とエピソードを明かした。
「長崎の皆さんの希望になるような作品になれば」と期待を込める広瀬さん。吉田さんは「戦後80年のタイミングに、この作品の地方プレミアが長崎から始まることに大きな意味を感じる」と話す。石川監督は「イシグロさんの生まれ故郷である長崎を思い描きながらロンドンで書いた小説を映画化して、長崎の皆さんに届けることができた。見る人の属性などでさまざまな解釈ができる作品なので、映画を見た皆さんが物語を大きく広げていってもらえれば」と締めくくった。
9月5日、全国公開。