メルカつきまち(長崎市築町)で11月23日、「町ねこサミット in 長崎」が開かれ、市民など約70人が参加した。主催は「長崎の町ねこ調査隊塾」。
主催した「長崎の町ねこ調査隊塾」は2011年5月、市が推進する長崎伝習所の塾の一つとしてスタート。当時犬を飼っていた塾長の中島由美子さんが2010年8月に動物の殺処分に関する講演会に出掛けたことがきっかけだった。特に猫への関心はなかったが、年間3,000匹近い猫が殺処分されるという現状を聞いた中島さんは大きなショックを受けたという。
「行政も猫の行動実態の把握ができていないはず。詳細なデータを作成して行政に働きかけよう」と、孤立無援の中で「猫の実態調査をするグループを作る」と決意した中島さん。長崎伝習所に活動計画書をまとめて応募したところ、採用された。調査内容をまとめた「ながさき町ねこハンドブック」は現在、3号まで発行されている。そのほか「ながさき町ねこ写真展」や「長崎の町ねこ講座」を開催したり、ほかの団体が発行する「長崎の地域ねこカレンダー」に協力したりするなど、猫に関するさまざまな活動を展開。2年間の伝習所を経て、現在は任意団体として活動を続けている。
受け付けには猫の写真を並べたタワーを配置。来場者は猫の写真やイラストが入ったティッシュペーパーを思い思いに手に取り会場へ。折ると猫の顔になる「町ねこ折り紙」を折る人も見られた。13時30分、同塾の副塾長で長崎県地域猫活動連絡協議会の中村淳さんが司会として登壇。ユーモアを交えながら一人一人のパネラーを紹介すると、会場からそれぞれ拍手が起こった。
最初に立った門司(もんじ)慶子さんは獣医の資格を持つ福岡市職員。1年半前まで家庭動物啓発センターの所長を務めていた。当初は猫に特別な興味があったわけではないが、市職員のメリットを生かしてできることと、市職員だからこそ手を出せないこととの間で悩むこともあったという。「地域猫活動というのは野良猫問題を地域住民の力で解決するもの。捕獲して不妊去勢手術を施し、時間や場所を決めて世話をするなどのルールに従って一代限りで飼育する。頭数をゼロにすることが目的ではなく、地域の人たちがお互いを思いやって助け合えれば半分解決したようなもの」と力を込める。NPOのメンバーが啓発センターを訪れて犬猫問題の相談に来たことがきっかけとなり、個人的にメンバーとしても活動を行っている。
続く木下征彦さんは、高崎商科大学の専任講師。日本大学で担当する自主ゼミ「人とねこ研究会」のゼミ生・川又彩夏さんと一緒に参加した。もともと、「まちづくり」「ボランティア」に関する研究者なので猫には何の関心もなかったが、2007年7月7日の学会の帰りに生後2週間ほどの子猫を目撃。かわいそうになり家に持ち帰って飼おうとしたが、ペット禁止の賃貸住宅なので知人や友人に引き取ってくれる人を探し回った2週間後、猫好きのアメリカ人にやっと引き取ってもらったという。しかしそれから1カ月後、木下さんはまた1匹の猫を拾ってしまう。
「猫は魅力より魔力があり、人間を魅了する何かを持っているとしか思えない。思い通りにならない相手だが、5回に1回くらいは意思疎通ができるところに程よい距離感を感じる」と振り返る。木下さんたちのテーマは「ねこを生かすまちづくり」。東京都谷中(やなか)商店街の取り組みを中心に「地域のまちづくりと猫との関係」について発表した。木下さんらとともに全国各地で研究している川又さんは日本大学4年生。数年にわたり猫の生態を観察する写真をたくさん撮影しているにも関わらず、「実は猫が怖い。絶対に触れない」と明かすと、会場では驚きとともに笑い声が広がった。
第3パネリストは塾長の中島由美子さんが発表。調査を通じて猫にえさを与える「エサやりさん」と、猫の被害に困っている「ねこ困りさん」の対立の話には多くの人が耳を傾けた。調査によると被害の多くが「ふん尿」によるもので、「エリアによっては土のある場所を意図的に作れば被害が減るのでは」という仮説から誕生した「町ねこトイレプロジェクト」が進行していることなどを紹介した。
最後のパネラー・山根明弘さんは「北九州市立いのちのたび博物館」の学芸員。「人と猫の歴史を振り返りながら両者の共存を考える」というテーマで野生動物研究者としての立場から講演し、「猫はリビアヤマネコを改良した家畜」と説明した。学説では約1万年前のメソポタミア地方に起源が見られるという。古代エジプトで発生した「バテスト教」は、猫を殺した者は死罪になるなど異常なほど神としてあがめた宗教が広く信仰された。その後、ヨーロッパ全土に増殖した猫は中世ヨーロッパでは「悪魔の手先」に変貌。18世紀までは街角で次々に虐殺されるという受難が続いた。
山根さんは「人間の都合に振り回され続けた生き物。日本では『招き猫』のように庶民の間で親しまれてきた動物。世界的にも珍しい文化で、日本の猫文化を取材に来る海外メディアも少なくないほど日本人にとって猫は特別な存在。適度な距離感を保ちながらも、年間10万匹の猫が殺処分されている現状を多くの国民が知り、地域社会全体のあり方も含めて考え直す時代が来ている」と締めくくった。