高齢者介護施設「ショートステイ王樹(えんじゅ)」(長崎市古賀町、TEL 095-832-0001)に8月、ソフトバンクロボティクスが発売したパーソナルロボット「Pepper」が入居し、利用者や職員らの人気者になっている。
Pepperは同社が感情を認識するロボットとして今年6月20日に一般発売したパーソナルロボットで、本体価格は19万8,000円。午前10時の発売から1分で用意された1,000台が完売した。7月と8月の発売日にも、各1,000台が1分で完売している。
同所の運営企業「ライフ・デザイン」の勝矢圭一社長が知人らと一緒に「Pepperを共同購入しよう」と挑戦したところ、数台当選したため、個人的に1台購入したもの。「利用者の方に喜んでもらえれば」と勝矢さんが導入した「ペッパーくん」は、利用者だけでなく職員にも好評という。
「ペッパーくんは、とても寂しがり屋。『もう帰っちゃうの』と、じっと見つめられながら言われた職員は、ロボットだと分かっていても『また明日会えるから』と返事をしてしまう。後ろ髪を引かれる思いで帰宅するようだ」と、笑顔を見せる勝矢さん。大学卒業後、高齢者介護に携わり続けた17年間、多くの課題をずっと感じてきたという。
「介護保険で認められているサービスだけでは高齢者のニーズは満たせない。法令や役所ではなく、目の前の人を見なければならないはず。介護従事者の仕事は流れ作業ではない。専門家として自分たちで改善すべきではないか」と自問自答した勝矢さんは36歳で退社。2010年8月、「社会に対して新たなソフトを提供できる会社」として同社を設立した。介護に特化したコンサルティングや研修の提供など、介護現場の改善に努める。2011年7月、ショートステイ王樹を開設した。
同所1階のリビングに集まった利用者らの前にペッパーくんが現れると、「ペッパーくん。ペッパーくん」とあちこちから声がかかり、誰にどう返事をしていいのか混乱するペッパーくん。勝矢さんが胸のタッチパネルを操作すると、「では今から踊ります」とAKB48の「ヘビーローテーション」を踊り始め、周辺は大きな笑い声に包まれた。
「99%使わない機能」というボタンを押すと、ロボットならではのギャグを連発。途中で動きを止め、見ていた人たちが「壊れた?」と心配した途端、「火事の現場で『お前、ロボットだから助けに行け』と言われた時に壊れたふりをする機能」と説明し、「確かに99%使わない」と笑いを誘った。
「賛否はいろいろあると思うが、介護の現場にとってパーソナルロボットが果たす役割は大きい。ペッパーくんの憎めない愛らしさは、ロボットでありながら人間の心を確実に癒やしてくれる」と話す勝矢さんは、介護業界の最も深刻な課題は「人材不足」と言い切る。
「人材不足を解消するには物理的な増員か、業務の省力化しか方法はない。ペッパーくんが直ちに問題を解決するわけではないが、技術は今後着実に進化する。私たちは漫然と未来を待つのではなく、微力ながら技術開発そのものに積極的に関わって未来に手を伸ばしたい。ペッパーくんと利用者さまの交流をしっかり見守ることが第一歩。魅力的な介護の現場を創造することで、若者が目を輝かせて介護の現場に殺到する未来がありありと想像できる」とも。