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長崎県内で全編ロケ映画「こん、こん。」 先行公開 横尾初喜監督と主演の女優・塩田みうさんに聞く

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 長崎県内で全編ロケが行われた映画「こん、こん。」の先行上映が6月9日、ユナイテッド・シネマ長崎(長崎市尾上町)とシネマボックス太陽(佐世保市)で始まった。今秋には全国ロードショーを予定する同作品。横尾初喜監督と主演を務めた長崎市出身の女優・塩田みうさんに話を聞いた。

 


【横尾監督と主演の塩田さん】

 

― 映画「こん、こん。」は横尾監督が手がける初の恋愛映画だそうですね

 

横尾 ドラマでは恋愛ものも撮ってきましたが映画では初めてです。一方でよくある「キュンキュンするような普通の恋愛映画にはしたくない」という思いもありました。作品作りでは「最後に泣いてもらえたらいいな」と思っていて、今作では人間の弱さや、強さがあるからこそ伝えられる「愛」みたいな部分を描くことができたのではないかと思います。

 

― 「こん、こん。」のタイトルについて教えてください。

 

横尾 昨年7月に行った県民キャストのオーディションの時はラブコメ映画「縄文人がやってくる」という仮タイトルで募集していました。撮影を進めていくにつれて作品のメッセージ性に沿ったタイトルにしなければいけないと考えていたのですが、長崎空港で長崎の童謡「でんでらりゅうば」が耳に入りました。歌詞の最後に「こんこん」とあるのですが、長崎らしさを感じる音のイメージとともに長崎弁で「来ない」という意味があります。作中で七瀬宇海の恋人・堀内賢星は宇海から多くの愛を伝えられるのですが、ささいな行き違いから距離を置いていたところ、事故で宇海を亡くしてしまいます。その後、宇海のボイスメッセージを聞いた賢星が気づいたときには宇海はもういないという意味と「こんこんとあふれる愛」という2つの意味が込められています。作品を見てもらった皆さんからも質問してもらうことが多いのですが、それぞれいろいろな解釈があるようでした。

 


【撮影を振り返る横尾監督】

 

― 今回の映画は同じく長崎県内で全編ロケが行われた映画「こはく」(2019)がきっかけと聞きましたが

 

横尾 映画「こはく」では撮影を通じて長崎全体が祭りのように盛り上がったという感覚がありました。長崎出身の私にとって故郷に恩返しできることがしたいと考えていたのですが、長崎で映画の撮影を続けていくことが長崎の人にも喜んでもらえるのではないかと感じました。同時に役者をしたいと考える若者がチャレンジできるきっかけになりましたし、長崎で映像制作に取り組む学生らの熱心さも強く感じました。私自身、作品作りは内に向かうものと思っていましたが、外に向かうものもある。私にとっても長崎で映画を撮る意義があるなと。昨年、スタッフ、キャスト共に、長崎県在住・出身者にこだわった映画製作を行うために「BLUE.MOUNTAIN」(大村市)を設立しましたが、プロデューサーとして活躍してくれている片平梓さんは、実は映画「こはく」のとき学生ボランティアとして手伝ってくれていた一人です。

 

― 映画「こはく」に出演したで塩田みうさんとも撮影の合間に「次は長崎でみうさんの映画を撮ろう」と話していたそうですね

 

横尾 映画「こはく」がきっかけで塩田さん出演の地元の角煮まんじゅうのCMにつながったりしました。当時は冗談半分だった部分もあるのですが、塩田さんの芝居が良かったし、才能を生かして活躍してほしいという思いがありました。オール長崎映画をこれから続けていくことを考えたとき、若い人に届く作品にしたいということで、長崎で生まれ育った女の子の恋愛映画という構想が浮かびました。

 


【映画のワンシーン】

 

― 映画の話を聞いた時はいかがでしたか?

 

塩田 恋愛映画と聞いて「壁ドン」とかキラキラしたイメージがあったので、私が演じていいものかと初めは不安もありました。台本に描かれていた七瀬宇海は「好き」がたくさんある天真らんまんな大学生で、すぐに「この役をやってみたい」と感じました。

 


【撮影を振り返る塩田さん】

 

― 七瀬宇海は塩田さんをイメージして作られた役だそうですね

 

塩田 賢星役の遠藤健慎さんからも「塩田さんそのまんまだね」と言われましたが、最初はうまく演じることができませんでした。撮影2日目あたりで「飲もう!」という一言だけのワンシーンで何度も撮り直しになり、メンタルの保ち方が分からなくなり逃げ出したくなるほどでした。役作りのために「宇海ノート」を作って「宇海を演じよう」と必死になっていました。横尾監督は今回、具体的に何も教えてくれなかったのですが、監督のふとした一言がきっかけで宇海が自分自身とかぶっていることに気づきました。そこから「塩田みうだったらどうするかな」と自分自身についてもっと知ろうと思えるようになったことで、「当て書きって、こういうことだったのか」とハッとしました。

 

横尾 台本にこんなに書き込みしている役者さんは初めてだったかもと思うほど、取り組む姿勢はすごかった。プレッシャーだったと思いますが、シンプルなストーリーだからこそ台本を超えなければ観客には絶対に伝わらないという確信がありました。塩田さんも遠藤さんも演技を知っているからこそ、2人にはこの作品でこれまでの演技を超えてほしいという思いもありました。何に感動するか? 感情を揺さぶられるか? 特に最後のシーンで宇海はボイスメッセージだけだったので声だけで表現しなければいけない。そういう視点から見ると宇海の役柄に気づいたことで3日目からは別人だったよね。

 


【撮影の話で盛り上がる塩田さんと横尾監督】

 

塩田 試写会の後、観客から「宇海ちゃん」と声をかけられることが初めてで不思議な感覚を覚えました。「いろいろな役者さんがいるけど宇海は塩田さんしか演じられない」と言われた時は驚きましたけど…。

 

横尾 最高の褒め言葉じゃないですか。試写会後に若者だけでなく、幅広い世代が泣いてくれてるのを見て、これは塩田さんが物語の中でしっかりと宇海という人間を描けたからこそじゃないかと思います。これは才能だけじゃなく、努力あってこそのことじゃないですか?

 

塩田 恥ずかしいから、それくらいにしておいてください(笑)

 

横尾 (笑)

 


【照れ笑いする塩田さん】

 

― ロケ地は何かこだわりがありますか?

 

横尾 今回、大村を中心に長崎と崎戸でロケをしました。長崎や佐世保は坂があり絵になる景色が多いのですが、大村は苦労しました。有名な観光地や名所は一切使っていないのは、長崎の日常的な景色の中でも切り取り方で、こんな見方もできると気づいてほしいという思いもあります。

 

塩田 私は長崎出身ですが大村にはあまり行ったことがないこともあり、「長崎にこんな景色があったんだ」と気付かされました。でも商店街の撮影ではカメラが止まってからも長崎弁が飛び交っていて、私が生まれ育った町もこんなだったなって思い出しました。

 

横尾 作品のテーマの一つに「愛のバランス」みたいなものがあり、テーマを象徴する存在としてシーソーのある公園を探したのですが見つかりませんでした。各地の公園をリストアップしてロケハンしていたところ、夕日がきれいな公園にたどり着きました。大村市の幸町公園なのですが、置いてあった土管に「これだ!」と。作中で賢星は事あるごとに土管に閉じこもり宇海が外から話しかけるというシーンが出てくるのでぜひ注目してほしいです。

 


【幸町公園でのワンシーン】

 

塩田 宇海が賢星に思いを告げるなど、「物語のターニングポイントは全部ここ!」っていうくらい大事な場所になっています。

 


【宇海がお気に入りの秘密の場所として登場する長崎空港の花文字山 ※一般の立ち入りはできません】

 

― クライマックスの崎戸というのも、あえてこの場所なのでしょうか?

 

横尾 初めは宇久島を考えていましたが、撮影の途中で体調不良者が出てしまったためロケが一時中断しました。宇久島は海が荒れるとフェリーも欠航になってしまうため、これ以上延期になるリスクが冒せないなかで知人に紹介してもらっていた崎戸を訪れ、きれいな砂浜を見つけて「ここにしよう」と決まりました。

 


【崎戸での撮影風景】

 

― 崎戸というと長崎の中ではメジャーな場所とは言えないので不思議に思いました。

 

横尾 長崎にはまだ知られていない、有名じゃないけど、いいところがたくさんあると思います。映画を見た人がロケ地を訪れたりして「こんな場所があったんだ」と思ってもらえるよう、そんな場所にフォーカスを当てていきたいと思います。

 


【試写会後の舞台あいさつには参加した県民キャストらも登壇した】

 

― 今後のオール長崎映画について教えてください

 

横尾 「長崎で活躍したことで東京に行くこと」を成功にしたくないという思いがあります。確かに東京には「最先端」があるかもしれません。どんなに有能な役者が長崎にいても今のままでは東京の仕事に呼ぶことになってしまいますので、映像のニーズを高めて供給を生み出す必要があります。時間はかかるかもしれませんが長崎にいながら活躍できる土壌作りをしていきたいと考えています。塩田さんの所属事務所も映画「こはく」がきっかけで大きく変わりましたよね?

 

塩田 若い人が増えました。「塩田みうを目指したい」という人もいてびっくりです。

 

横尾 塩田さんは役者として信じたものを返してくれたと感謝しています。これからはさらに上を目指していくと同時に若手を育成していく側としても頑張ってもらえればと思っています。

 


【今後のオール長崎映画の構想を話す横尾監督】

 

― 今日は貴重なお話を、ありがとうございました。

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