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長崎市内で「書道バー」-書道を楽しむ新しいスタイル

ソフトドリンクを飲みながら、書を楽しむ参加者

ソフトドリンクを飲みながら、書を楽しむ参加者

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 個性派古書店「ひとやすみ書店」(長崎市諏訪町)で1月7日、イベント「書道バー」が開かれた。

「我逢人」と軽いタッチでつづる参加者

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 2013年3月まで長崎市築町でユニークな予約制古書店を開いていた城下康明さんが内容を発展させて昨年4月、マンションの一室にオープンした同店。以前の店にはなかったコーヒースタンドを併設し、古書ばかりでなく新刊本も扱うようにした。

 「書道バー」を企画したのは書道スタジオ「Start」(中町、略称=ショスタ)代表の福山嘉人さん。「ビールやワインを片手にすずりで墨をすり、筆を走らせるという『非日常でおしゃれな大人の時間』を形にしてみた」と福山さん。この日、イベントに参加したのは女性2人、男性1人の3人だけ。福山さんは「人数は問題ではない。書道をやってみたいという人が一人でもいれば、そこがスタート」と、自身が始めた店名に込めた思いと重ねる。

 参加者にはショスタオリジナルの白い有田焼のすずりセットをそれぞれ用意し、福山さんが道具の使い方を説明。書道は手本をなぞるように揮毫(きごう)するケースが多いが、同イベントでは揮毫する文字のヒントとなる書籍の目次をコピーした紙を用意した。参加者らはドリンクを飲みながら、福山さんの指導を参考にして思い思いに自由な書を楽しんだ。揮毫する紙は丈夫な「越前和紙」で作られたハガキ。「すまいる」という文字を笑顔の形に描いたり、「我逢人」「一心」などの文字を紙上にデザインするように書いたりした。福山さんは「ショスタをオープンして間もなく2年になる。手ぶらで思いついた時にいつでも書に親しめる環境を作り出すというコンセプトを広めようと頑張ってきた。最近、それがやっと形になってきた」と振り返る。

 鹿児島県霧島市(旧国分市)で約120年続く石材店を営む家庭に生まれ育った福山さんは高等専門学校を卒業する間際、家業の石材店を継ごうとぼんやり考えていたという。ところが母親に「それは単なる甘え。外で勉強してこい」と言い放たれ、結局は技術者として大企業に就職した。同社では海外プロジェクトのメンバーとしても地球規模で活躍し、技術者として成功も失敗も体験しながら順調に実績を積み上げてきた。しかし、もともと独立心が強かった福山さんは「もうそろそろいいだろう」と、およそ7年勤めた会社を何の未練もなく退職した。

 「特に明確な計画があったわけではないが、サラリーマンを続ける気は全くなかった。小さいころから親しんだ書道を生涯の仕事にしたいという方向性が見えてきた時、従来のやり方は窮屈で仕方がないことに気が付いた。本当は書道が大好きなのに辞めざるを得なかった人や通えなくなった人もいるはず。誰でも手ぶらで気軽に立ち寄れて、思い思いに書を楽しめる環境があればと思ったがどこにもなかった。だったら自分が最初に形を作り上げようと思った」。福山さんの中で「書道スタジオ」というコンセプトが完成した瞬間だった。

 インスピレーションに突き動かされるように実現を模索し始めると、その思いにシンクロするように偶然が重なり、2013年2月に現在の店をオープン。しかし、今までにないスタイルがなかなか認知されず長い開店休業状態を余儀なくされた。そのころを知る男性は「いつ行っても福山さんが一人で何か黙々と作業していた。私に言うことは決まっていて、『もうすぐ多忙になることは分かっているので、いろいろな準備ができる時間を与えてもらっている今は本当にありがたい』と。この人にはかなわない」と評した。

 「書き初め大会」「へのへのもへじ選手権」「写経教室」などの企画をはじめ、書家やパフォーマーとのコラボイベント、企業などへ出張しての教室など、「書道」を新しい切り口で広げている。オープン当初からサポートしている書道家らの協力が徐々に実り、教室の利用者が増えたショスタは昨年、福岡教育大学で書道を専門に学んできた女性をスタッフとして雇った。「大学でせっかく専門に学んでも書道を仕事にする場所は限られており、長年書道を続けている人でも技術や知識、経験を生かせる環境が少ない。書道だけを職業にして生活するのは難しい時代だと思う。最近は筆耕(毛筆による写字や清書の代行)の依頼も多く受けるが、決して安くないのに遠くから来店してもらうことが多い。安くしない理由は、お金と時間をかけて学んできた技術を持つ人たちが、書道だけで十分にご飯を食べられる環境を作りたいから。それが僕の役割。今の子どもたちが目を輝かせながら『書道の先生や書道家になりたい』という夢を語るような時代を作りたい」と話す福山さんは、新しい時代の書道ビジネスの基盤作りを模索している。

 「これはショスタの立場と考え方であり、今でも試行錯誤しながらやっている。きっかけはうちでも、料金が安いからとか、近くだからとかいう理由でよその教室へ通っていただくのは大歓迎。自分の願いは教える側も学ぶ側も書道をやりたい人が書道をできるようになること。一人でも多くの人にとって書道をスタートさせる場所になれば」と笑顔を見せる。「何事もやってみないと分からない。自分はまだまだ20代の若造なので、自分にしかできない『新しい時代の書道ビジネス』を形にしていきたい」とも。

 次回の「書道バー」は1月15日・28日のそれぞれ18時30分~、長崎市立図書館内にある「池田屋」(興善町)で開催する。参加費は3,000円(1ドリンク付き)。定員は各10人。

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