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長崎・ちびっこ創作村で児童養護施設の子どもが自然体験

レオクラブの合同例会(蜻蛉の舎)

レオクラブの合同例会(蜻蛉の舎)

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 長崎・唐八景公園近くにある自然体験施設「ちびっこ創作村」(長崎市上戸町、TEL 095-821-2712)で11月1日、児童養護施設に入所する子どもたち約20人がレクレーションを楽しんだ。

入枝恵美子さん

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 「ちびっこ創作村」は、長崎市大浦町で生花店を営む入枝和男さん(故人)が母親から譲り受けた雑木林を同居する家を建てる目的で開墾を始めたことが開村のきっかけ。1977(昭和52)年、約10年かかった完成を目前にして母親が他界したため「自然の中で子どもたちが遊べる場所に変えよう」と開墾を続行。さらに9年の歳月を経て、1986(昭和61)年に開村した。

 和男さんは「創る、学ぶ、語る」を村の理念に掲げ、展望台、調理室や工作室、2万冊の蔵書を備える図書室、五右衛門風呂、パンやピザが焼ける石がまなど、手作りでコツコツと整備を進めた。最盛期の年間利用者は2000人を超え、「自己責任と後片付け」を唯一のルールとして無料開放した(現在は利用者の寄付金などで運営)。村の運営に没頭するため、店は妻の恵美子さんに全て任せた。

 「残るは語る場だけ」と設計図を眺めながら着工を楽しみにしていた和男さんだったが、「語る場」の完成を見ることなく2006年、肺がんのため63年の生涯を閉じた。和男さんの逝去で休村を余儀なくされたが、恵美子さんにはどうすることもできなかった。半年後、不登校の生徒を指導する担当教諭から「子どもたちが楽しみにしています」と再開を請う電話が恵美子さんにかかってきた。同教諭は休村するまで毎月、子どもたちを自然体験に参加させていたという。

 2007年春、運営を支えていたボランティアスタッフからも背中を押されて村長を受け継いだ恵美子さんは、和男さんが残した設計図を元に同年秋に建物を完成させた。建築作業や物資供給は、さまざまな立場から大勢の支援者が支えてくれた。葬儀の日、最後の別れを告げるため同村に戻った和男さんの棺のそばを、ずっと離れなかったトンボにちなんで「蜻蛉(とんぼ)の舎(いえ)」と命名された。

 レクレーション当日、長崎出島ライオンズクラブのメンバーや「長崎レオクラブ」「瓊浦(けいほ)高校レオクラブ」(大学生や高校生が中心となって運営するボランティア団体)のメンバーらが長崎市内にある児童養護施設の子どもたち約20人を出迎えた。同施設では、さまざまな事情を抱えて親元で暮らせない子どもたちが生活している。

 両レオクラブの大学生・高校生メンバーらは子どもたちと一緒に「はしご登り」をスタート。安全対策のためにメンバーらが見守る中、子どもたちは歓声を上げながらカラフルに塗装されたはしごやロープを使って自然の斜面を登ったり降りたりして楽しんだ。

 長崎レオクラブの古賀逸輝会長(長崎総合科学大学工学部3年)が「鬼ごっこする者、この指止まれ」と呼び掛けると、子どもたちが一斉に集まった。学生らは子どもたちを背負って「鬼ごっこ」を開始。子どもたちは「あっちに逃げて」「後ろに鬼がいるよ」「きゃー助けて」とメンバーの背中から指示を出し、つかの間の「お兄ちゃん、お姉ちゃん」との交流を楽しんだ。

 12時、朝から準備を進めていた「さらめし」が完成。「順番に並んで」と指示されると、給仕する大きな鍋に向かって小さい子どもたちから順番に行列ができた。容器に入ったご飯と乾麺を差し出すと、「おいしいぞ」の声とともに飲食店を営むメンバーが調理した「特製あんかけ」がご飯にかけられ、「水餃子スープ」とともに参加者に配られた。

 昼食後は、ライオンズクラブのメンバーらがあらかじめ「下絵」を描いた色紙に子どもたちが色を塗って遊んだ。「わっ!上手だね」「君は天才か?」「おじちゃんにも描いて」。完成した「ぬり絵」を褒められた子どもたちは満面の笑みを浮かべてメンバーと一緒に記念撮影をした後、みんなで二手に分かれて綱引きをして楽しんだ。

 13時30分。引率する社会福祉士の掛け声で並んだ子どもたちは「ありがとうございました」とメンバーらにあいさつ。「また遊ぼうね」と別れを惜しみながら解散した。「社会福祉士として毎日子どもたちを見ているが、こんなに喜ぶ姿を久しぶりに見た。レオクラブの皆さんのことは楽しい思い出として、子どもの心にいつまでも残るだろう」とも。

 同村の運営を長年支えてきたボランティアスタッフで登山家の間安廣さんは「不登校で通っていた子どもが最近来なくなった。自分の意思で学校に通い始めたらしい。今年一番うれしいニュース」とほほ笑む。

 長崎出島ライオンズクラブの本田利光会長は「さまざまな事情を抱えた子どもたちなので写真を公開できないが、屈託がない子どもたちの笑顔に自分たちの方が癒されたり、教えられたりする。これからも未来を担う子どもたちのための活動を続けたい」と力を込める。

 「夫がこの世を去ってまもなく10年。たくさんの人たちの支えがなければ続かなかった。夫が子どもたちに注いできた愛情を、これからも遺志を受け継ぎ育んでいきたい」と恵美子さん。

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