「長崎の『旬』を愉(たの)しむ」をテーマに酒と食を楽しむイベントが7月26日、大衆割烹(かっぽう)樋口築町店(長崎市築町)で開催された。
「飲食を手がける地場の企業として長崎の食の魅力を発信したい」と地元の食材や長崎の食文化を届けるさまざまな取り組みを行ってきた同社。飲食営業部長の西村壮平さんが昨年、出島町にギャラリーを併設した都市型醸造所「でじま芳扇堂」の立ち上げに向けて準備を進めている日向勇人さんのことを知ったことから、クラウドファンディングで支援を行っていた。
3月にオープンした「でじま芳扇堂」では、日向さんが日本酒の技術を生かしたどぶろく「芳扇」シリーズを醸造。地元の旬の農産物を主原料にした新銘柄「たすき」も発表。どぶろくや日本酒とともにつまみを楽しめるバーや陶芸ギャラリーを併設した醸造所として食と文化を発信してきた。
「ひぐちの和食を中心とする食とでじま芳扇堂の酒をマッチングしたイベントにしたい」と準備を重ね、限定メニューを含む全7品のコースに、日向さんがセレクトしたどぶろくや日本酒を、飲み方も交えて提案した。
当日は、熊本県阿蘇産のレイホウを使い、米の粒を残した「旨(うま)口」のどぶろく「芳扇 友」と先付けとして自家製の「雲丹(うに)豆腐」を各テーブルに配り、日向さんが音頭を取った乾杯で始まった。
前菜は「スモークサーモンの手まりずし」やハモの湯引き、サツマイモ「丸十」のレモン煮などを盛り合わせた色鮮やかなプレートスタイルで用意。日向さんの修業先だった富久千代酒造(佐賀県鹿島市)の「鍋島 特別純米」と「芳扇 友」を炭酸で割ったスタイルを提案した。「日本酒を炭酸で割ることはあまりないと思うが、どぶろくは深みのある酒なので炭酸と合わせることでさっぱり感を持たせた飲み方もお勧め」と日向さん。
長崎市特産のかんきつ類「ゆうこう」を餌に混ぜて養殖した「ゆうこう鯛」やイサキ、タチウオ、シマアジ、マグロを盛り合せた造りには酒米「雄町」をできる限り溶かしきって辛口に仕上げた「芳扇 波」を合わせた。
揚げ物は熊本県天草産の車エビに湯葉を巻いた「東寺揚」と「だだちゃ豆」のかき揚げを用意。組み合わせた「芳扇 雲」は中華、スイーツなど油分や脂肪分の多いものに相性のいい甘口に仕上げている。
会場中央に大きなパイ包みがのった大皿が運ばれると、西村さんが今日のために試作を重ね、「雲仙活(い)き活きポーク」を使ったローストと説明。パイを切ると「そのぎ茶」が使われていることから会場にお茶の香りが広がり、参加者を楽しませた。肉料理に合わせた酒として樋口オリジナルどぶろくとして参加者にグラスも配った。料理を切り分ける間、日向さんが原料当てクイズで会場を盛り上げ、「ゆうこう」「そのぎ茶のゆず緑茶」「蜂蜜」を言い当てた参加者に手拭いを進呈した。
食事の最後は、ハーブ鶏とトウモロコシご飯に焼きナスの赤だしで締め、富山県・五箇山の日本酒「三笑楽 上撰」を合わせた。デザートには「芳扇」を使ったジェラートとフルーツを用意。6月限定のどぶろく「たすき 桃」と辛口タイプの特別純米酒「京山水 特別純米」を合わせた。
参加者からは「マッチング含めて食と酒を楽しめた」「(日本酒はあまり飲まない客から)楽しい時間が過ごせた」という声が聞かれた。
「どぶろくは香りや味わいだけでなく、外観やテクスチャーなど五感に与える要素がとても多い。食のエンタメ性を高める酒としてさまざまなスタイルで楽しんでもらえれば」と日向さん。「コロナ禍の約3年、飲食についてより深く考える期間になった」と話す西村さん。「地元の食材や長崎の食文化とその魅力を伝え、飲食店ならではの『食』の魅力を楽しんでもらえる店にしていきたい」と話す。