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ユナイテッドシネマ長崎で映画「友だちと歩こう」上映会-長崎の医師団体が主催

上映会スタッフ。後列右から3人目が緒方明監督。同4人目が詫摩和彦医師

上映会スタッフ。後列右から3人目が緒方明監督。同4人目が詫摩和彦医師

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 ユナイテッドシネマ長崎(長崎市尾上町)で2月10日、映画「友だちと歩こう」の無料上映会が開かれた。主催は「長崎在宅ドクターネット」。

トークショーでの緒方監督(左)と詫摩さん

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 主催する「長崎在宅ドクターネット」は、斜面地などが多い長崎特有の事情などから主に病院まで通えない高齢者を支えるため、長崎県内在住の医師らが2003(平成15)年に結成した団体。複数の医師が在宅訪問診療や往診を互いに連携を図ることで24時間対応を実現し、患者が安心して在宅医療を受けられるようにしている。

 患者の居住地域に応じて主治医を決め、副主治医がバックアップ要員として控えるシステムで訪問診療の分担や万一の緊急対応にも備える。現在、正会員は85人、準会員として100人の医療関係者が所属。当初は任意団体としてスタートしたが、2008年にNPO法人、2010年には認定NPO法人として法人化した。

 緒方明監督と脚本家・青木研次さんが「独立少年合唱団」(2000年)、「いつか読書する日」(2004年)に続き9年ぶりにタッグを組んだ同作は、昨年3月に全国公開されたが長崎では上映されていない。同団体メンバーで詫摩医院の詫摩和彦医師が同映画に出資した。

 詫摩さんは「緒方監督は長崎大学教育学部附属中学校(文教町)の同級生。映画の内容が興味深く面白かったので喜んで出資させてもらった。全国各地の小さな映画館などで上映されたが、長崎ではなかなか上映が実現しなかった。今回は1回限りの上映会だが、やっと長崎の人たちに見てもらえることがうれしい」と振り返る。詫摩さんが発案し、同団体が無料上映会を主催した。今年1月初めから関係する医療関係者やフェイスブックなどで参加者を募ったところ、今月6日に定員の200人に達したという。開場時刻にはまばらだった観客は、上映開始5分前には全座席をほぼ埋め尽くした。上映に先立ち緒方監督は「無料だからかもしれないが多くの人に見てもらえてうれしい。歩行が困難な老人が出てくる映画。笑ってもいいのかなと迷う場面もあるが、喜劇なので大いに笑ってほしい」とあいさつした。

 ストーリーは同じ団地に暮らす老人の男性2人と、青春が終わったことに気づいていない30代の男性2人が繰り広げる「奇妙な物語4話」が詰まったオムニバス映画。団地住まいの老人・富雄(上田耕一さん)と仲良しの老人・国雄(高橋長英さん)が珍妙な掛け合いを見せるほか、30代の男性モウリ(松尾諭さん)とトガシ(斉藤陽一郎さん)が別の奇妙な展開を繰り広げる。

 上映後に行われた緒方監督と詫摩さんとのトークショーで緒方監督は「この映画は2010年に企画した。最近は映画の企画が通りにくく、特にオリジナル作品は厳しい。資金は集まらず、スタッフも捕まらない。私が教授をしている日本映画大学の学生などに声を掛けたら、短期間の撮影ならボランティアで手伝ってもいいと言うので、3日程度で撮影できる作品にした」と照れながら話した。脚本家の青木さんに「老人が道を歩く映画を書いてほしい」と依頼した緒方監督は、もともと道が好きだと断った上で「道はどこにでもあるし無料で使える。面倒な使用手続きもあまり要らない。夜は照明料金が高いので昼にロケを集中させた。俳優さんへのギャラだけは予算をかけた」と支払った「あり得ない出演料」を明かすと、会場にクスクスと笑い声が広がった。

 衣装合わせの翌日、東日本大震災が発生。3月18日からクランクインを予定していたが、「映画なんか撮っている場合なのか。頼まれもしない映画を」と自問自答。周囲の状況も慌しくなり多くのボランティアスタッフが脱落した。緒方監督は「数日悩んで撮影を中止した」と振り返った。

 半年後、「あの映画はどうなりましたか」という声が集まり、2012年3月に第1話「たばこを買いに行く」(上映時間=約30分)を完成させた。「30分のストーリーだけでは上映できない」と続きの脚本を青木さんに依頼。同級生の詫摩さんには映画への出資を依頼し、限られた条件の中で3話を追加して完成させた。詫摩さんが「震災後に撮影したストーリーは展開がまろやかになった。この映画を見るのは今回で5回目。見るたびに味わい深い作品。今日は医療や介護関係者が大半だが、私たちはついつい老人を自分たちが想定する型にはめ込もうとする。この映画の老人たちは病院に通院しているのか、デイケアを受けているのか全く分からない。自由に生きている感じがとても気持ちいい」と話すと、多くの観客がうなずいた。終了後は「唯一の収入源なのでよろしく」と、緒方監督は自ら監修したパンフレット(600円)を販売。購入者一人一人にサインして手渡すと、多くの人が列を作ってパンフレットを買い求めた。中には友人や家族の分までまとめて買い求める人も。

 観賞した40代の男性は「おふくろが歩行困難なので身につまされたが、とても面白かった。また見たい」と笑顔を見せた。長崎市内に住む女性は「20年後、国雄さんのように一緒にたばこを買いに行こうと言ってくれる友だちが果たしているだろうか。自分自身を振り返るいい機会をもらえたような気がする」と感想を話した。

 緒方監督は「ようやく大好きな長崎で上映できた。本当に作ったかいがあった」と顔をほころばせた。

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