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長崎県内で全編ロケ映画「いろは」 先行公開 横尾初喜監督に聞く

 長崎県内で全編ロケが行われた映画「いろは」の先行上映が5月8日、ユナイテッド・シネマ長崎(長崎市尾上町)とシネマボックス太陽(佐世保市)で始まった。5月22日から順次全国公開を予定する同作品。横尾初喜監督に話を聞いた。

 


【横尾監督】

 

 青春ロードムービーとなっていますが、映画を通じて伝えたいテーマはありますか?

 

 テーマとしては自己肯定感の低い主人公が長崎を旅するなかで「自分を好きになる」とまではいかなくても、「認めてあげる、自己受容していく」という話にすることを前提としています。

 

 実は、前作の映画「こん、こん。」の撮影中に芸能に目覚めたという方がいたり、「役者を目指したい」という相談を受けたりしていました。「自分はできない」と自己肯定感を持てていない人が若い人に多くいるという現実があり、よくよく話を聞くと育ってきた環境や親御さんの影響があることに気づきました。これは長崎だけの問題ではないかもしれないと感じました。映画のテーマは長崎の皆さんにもらったという感じです。

 


【映画のキービジュアル © 2026 BLUE.MOUNTAIN

 

 ロケ地で印象的だった場所などはありますか?

 

 長崎を映画でつなぎたいという裏テーマがあり、ロードムービーにしたいと考えていました。佐世保は自分の出生地でもあり、そこから物語がスタートします。そして、長崎市は舞台にすることを決めていましたが、残り2カ所は決めていませんでしたが、諫早市と雲仙市を結ぶ諫早湾干拓道路を訪れて、「すてきな場所」と感じました。県北では認知度がまだ低いこともあり、「ぜひ知ってもらえれば」という思いで諫早市が決まりました。

 


【パンフレットで紹介されているロケ地マップ】

 

 最も印象的なのは、クライマックスシーンで出てくる雲仙市の木津漁港ではないかなと思います。ロケハンで主人公の2人が泊まる民宿として決めた割烹料理店から見えた場所で、千々石から細い道を通った先にあるマニアックな場所にあるこの漁港は行き止まりの場所にあり、主人公・伊呂波にとって行き止まりでもあるシーンです。クライマックスシーンは野母崎や島原などさまざまな候補が上がったなかで、すごく穏やかで、その先に広がる美しい景色があったので、「ここでクライマックスを迎えられれば、主人公の未来がちょっとだけ見えるのでは」と感じたことが、この場所を選んだ理由です。

 

 

 オール長崎ロケの3作目となりますが、長崎で撮り続けるなかで変化などはありましたか?

 

 自分の中での価値観が変わったことが大きいですね。1作目の映画「こはく」までは映像を作るときに「自分のクリエーティブをどうやって作品に刻むか」という対峙(たいじ)をしていて、内を向いていた感覚があります。長崎県出身者が立ち上げ、映画を通して「故郷である長崎を継続的に盛り上げること」を目的とする「長崎 MOVIE PROJECT」を通じて映画を撮るということが自分の中で明確に「伝えるための手段」になりました。

 

 今作では「皆さんといかに作り上げていくか」ということを考えて作ってきました。長崎の皆さんと映画を撮ることで連携も強くなりましたし、熱量も上がっていっている気がします。

 

 

 映画に参加している県民キャストさんなどとのエピソードはありますか?

 

 映画のストーリーにもつながるのですが、特に女性に多かったのがこの業界に興味があるけど「あんたなんかにできるわけない」と言われ続けてきた人が多かったです。キャストさんに限らずスタッフや裏方を務めた学生さんなど、母親に否定的な言葉を投げかけられてきているのです。生い立ちから相談されることも多く、若い人たちにとってはトラウマ(心的外傷)になっていると感じました。娘と母親という特殊な関係性の問題だと感じましたし、「どうにかしてあげたい」という思いがずっとありました。

 

 思い返すと祖母が長女だった母に同じように愚痴を言い、否定的だった記憶があります。こういったことを言われ続けると身動き取れなくなってしまいますよね。ストーリーを書く時に根底にあったのは幼い頃から見てきた祖母と母の関係性だったのかもしれません。鶴田真由さんに主人公の母役をお願いしたのですが、姉妹を差別するような母の役立った鶴田さんは「すごくつらく苦しい役だった」と振り返っていました。ほぼ私の祖母のような感じです。(笑)

 


【伊呂波の母役を演じる鶴田さん 
© 2026 BLUE.MOUNTAIN

 

 昔は3世代が一つ屋根の下に暮らしていましたが、私たちの世代から核家族化が進みワンオペになってきましたよね。考え方を変えると閉鎖的な空間に母と子どもだけという状態なのが作品を作る過程で怖いことだとも感じました。子どもにとって親は唯一無二で大きな影響を受ける存在ですし、そんな相手に否定的な言葉を浴びせ続けられていれば自信も持てなくなるのではないでしょうか?

 

 

 映画のなかでそのような設定があるということですよね?

 

 はい、主人公の伊呂波は母親にいちいちたたかれ、文句ばかり言われているのに姉が帰ってくるとうれしそうにする。上手に立ち回る姉だが、実は中身は空っぽで、母親に気に入られるために演じているだけなのが露呈してくるという姉妹の物語になっています。殻に閉じこもっていた妹のほうが実は強かったけど、根っこにあるものは同じだったというのが本質なのです。

 

 今作の見どころはここですね?

 

 見どころとしてはこの問題をあまり重く受け止めてほしくなかったです。「自信過剰男」「モラハラ男」「借金男」と花蓮と関係のあった3人の男が現れることは初めから決めていて、長崎の各所で出てくる設定です。コメディーパートを入れて面白おかしくしているので、「こんな男いるよね」と長崎を一緒にドライブしながら軽い気持ちで笑いながら見てほしいです。

 


【伊呂波と花蓮が父親候補の3人の男に会いに行くというストーリー
© 2026 BLUE.MOUNTAIN

 

 今回のメインキャストが川島鈴遥さんと森田想さんに決まったのは理由がありますか?

 

 芝居力やポテンシャルを知っていたことから前作「こん、こん。」では塩田みうさんを起用しました。今作でも長崎のキャストを主役にできればという思いでオーディションをしたものの、主役を務められる人に出会うことができませんでした。

 

 

自分と向き合って最後に爆発させる伊呂波に対して、それを仕かける花蓮はとても難しい役回りだったので映画の世界では子役からやってきて実力派の森田さんを花蓮役にできればという思いがあり、オファーしたところ快諾してもらえました。しかし、伊呂波を演じられる人を探すのも難しく、花蓮役が決まったことでいろんな役者さんが手を上げてくれたのですが、スケジュールなどの問題で実現できませんでした。

 

 川島さんは高校生の頃にドラマでご一緒させてもらったことがあり、5~6年の時を経ていい意味で大人の影が出ていたので決めました。森田さんの演技が本当にうまいので、クライマックスシーンで川島さんが見事に爆発してくれました。「こはく」のクライマックスシーンでは自身の半自伝的な作品だったこともあって泣いてしまい、「後にも先にもなくことはないだろう」と思っていました。今回は脚本も客観的に書いたにも関わらず泣けたので、いい映画になったのではないかと思います。

 

 今作も県民キャストのオーディションがありましたが譲れないポイントなどはありましたか?

 

 オーディションはみんなに楽しんでもらうお祭りのようなイベントとしても大事にしています。老若男女たくさんの人に来てもらい楽しんでもらったのはありますが、どうしても撮影がスタートしたときに役に入れる人と入れない人がいるので、それはポイントとなってきます。「こん、こん。」では100人ほどだった参加者も今作では300人以上が応募して、皆さんの熱量にうなされたほどです。(笑)

 

 

 県民キャストさんで注目してほしいポイントはありますか?

 

 高齢の方でも「冥土の土産に」と手を挙げてくれた方などもいて、学生時代に演劇部に所属していたといった経歴もあり上手なキャストさんもいました。冒頭、伊呂波の実家の時田茶屋で井戸端会議しているおばちゃん役をお願いしたりしています。地元情報番組でマルチタレントとして活動し、同作では民宿を営む遠藤久美子さんの姉役として出演した石本愛さんも演劇をされていましたので、いつもの石本さんとの違いも楽しんでもらえるかもしれません。

 


【伊呂波たちが訪れる民宿を営む姉妹役で遠藤久美子さん(左)と共演した石本愛さん
© 2026 BLUE.MOUNTAIN

 

 諫早のシーンで登場する子どもの姉妹がいるのですが、このお母さんが素人なのですが、素人に見えないほどのナチュラル演技力に驚かされました。こういった方に出会えるのも楽しいです。

 

 オール長崎ロケの良さでもありますね。

 

 第二の塩田みうが生まれるといいなと思いますね。

 

― 最後にこれから映画を見る方にひとことお願いします。

 

 みんなそれぞれ自分の嫌いなところが絶対にあると思いますし、悩んだことない人はいないと思います。誰しも経験していることだと思うので、いま経験しているという方には心が軽くなれるのではないかと思いますのでぜひ見てもらいたいと思います。

 

― 親の視点で見てもおもしろそうですね

 

 息子が6歳と9歳になるので親目線でフォーカスすることが多くなってきました。私たちの世代がしっかりしないといけないという思いもありますので、そういった人にも見てもらいたいですね。

 

 今日は貴重なお話を、ありがとうございました。

 

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