長崎で伊藤銀次さんが「ウキウキウオッチング」-脳性まひの女性に楽曲をプレゼント

伊藤さん(左)が作曲した「虹」を聞いて満足そうな笑顔を見せる平田さん(右)

伊藤さん(左)が作曲した「虹」を聞いて満足そうな笑顔を見せる平田さん(右)

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 脳性まひの詩人・平田喜久代さん(55)の詩にオリジナルの曲を付けたミュージシャン・伊藤銀次さんが2月12日、長崎市内の病院に平田さんを訪ね完成した曲を披露した。

東山手甲十三番館のライブの様子

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 平田さんは脳性まひや言語障がい、四肢にまひを持ち、長崎市内の病院で40年以上にわたり入院生活を送っている。2003年に気管切開して以来、かすかな声しか出せない状態にもかかわらず、妹の山口まゆみさんが姉の詩作をサポートしながら介護を続けている。2011年1月に長崎特別支援学校に入学し、50代にして生まれて初めて小学生になった平田さん。心の底からあふれてくる喜びを「おばちゃまですけど…」と軽快な言葉で詩に表現した。平田さんの担任だった大原万里亜さんの勧めがきっかけとなり2012年8月、詩集「きくちゃんの詩(うた)」を出版。詩集の評判は口コミで全国に広がり、昨年4月には女優の大地真央さんが大浦天主堂(長崎市南山手町)の中で朗読したテレビ番組が全国放送されるなど大きな反響を呼んだ。

 伊藤さんは1950(昭和25)年大阪府生まれ。1976(昭和51)年に故・大瀧詠一さん、山下達郎さんらと「NIAGARA TRIANGLE Vol.1」を発表。佐野元春さんがデビューした当時の音楽プロデューサーも務めた。歌手やギタリストのほか、作曲家、音楽プロデューサーとして多才ぶりを発揮する一方、今年3月で30年以上の歴史に幕を下ろすテレビ番組「笑っていいとも」のテーマ曲「ウキウキWatching」の作曲者としても知られている。昨年秋、伊藤さんはフェイスブックで知り合った大原さんの招きで長崎市内のオハナカフェ(浜町)でライブを開催。その時に「きくちゃんの詩」を初めて読んだという。「読んでいるそばから次々にメロディーが頭の中に浮かんできた。楽器も何も準備していなかったので『やばい』と思って詩集を閉じた。東京に持ち帰って作曲を始めたら、一気に9曲も出来上がった」と振り返る

 マスク姿で面会に臨んだ伊藤さんが「こんにちは」と元気に呼び掛けると、にっこりと笑顔で応える平田さん。「虹」「おばあちゃん」「神様のごほうび」など完成した曲の中から3曲を披露すると、うれしそうに聴き入っていた。一通り演奏を終えた伊藤さんが小さな声で「お昼休みはウキウキウオッチング…」と歌い始めると、平田さんの目が一段と大きく開いた。軽快なリズムに乗って唇はかすかに同じ歌詞を刻み、体が小さく揺れていた。介護のため寄り添う妹の山口まゆみさんは「40年以上ずっと病院にいる姉にとってテレビは大きな楽しみの一つ。夢のような最高のプレゼント」とほほ笑む。

 「歌のために作られた詩ではないが、きっと平田さんは歌が大好きなのだと思う。僕が作っているというより、彼女の詩が持っているエネルギーに僕が導かれている感じ」と伊藤さん。18時30分からは東山手甲十三番館(東山手町)でアコースティックライブを開催。フェイスブックで知り合った20人ほどが集まった。先ごろ亡くなった大瀧詠一さんとの思い出話や、普段聞けない音楽業界の裏話に集まった人たちから「へ~」「ええっ!」という声が漏れた。「フェイスブックはすごい。多くの縁に恵まれ長崎が大好きになった。東京ではなく、長崎から『きくちゃん』のCDを出す」と宣言。平田さんに披露した3曲を演奏すると、会場は大きな拍手に包まれライブは和気あいあいのうちに21時ごろ終了した。

 翌13日、伊藤さんは長崎在住のミュージシャン・高浪慶太郎さんのレコーディング作業に立ち会った。高浪さんは現在、平田さんから提供された詩にオリジナルの曲を付けてCD化を進めている。伊藤さんはこの日、得意のギター演奏で高浪さんを支援した。「まだ読んでいない人はぜひ読んでほしい。高浪さんや僕がこれだけ魅了されてしまう言葉のオーラにきっと圧倒されるはず。高浪さんのCD完成を見届けたら僕も作業に入る。早く取り組みたい」と意気込む。これらのCDは3月~5月ごろ発売される予定。

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