
写真:クシクラゲの一種、カブトクラゲ。
長崎・九十九島から生命進化の謎に挑む
~約6億年前から続く海の生き物「クシクラゲ」を手がかりに、未来の医療へ~
ヒトの免疫やがんにも関わる糖鎖認識タンパク質「ガレクチン」。この重要なタンパク質は生命進化の中でどのように誕生し、多様な働きを獲得してきたのでしょうか。その起源や進化の過程は、いまだ多くの謎に包まれています。
長崎国際大学大学院薬学研究科では、その謎を解き明かす鍵として、長崎・九十九島に生息する約6~8億年前から続く海の生き物「クシクラゲ」に着目しています。クシクラゲは生命進化を考えるうえで重要な動物であるにもかかわらず、そのガレクチンについてはほとんど研究されていません。最近、私たちはクシクラゲが持つガレクチン遺伝子の解析に成功し、その特徴を明らかにするための研究を進めています。 本研究では、この成果を基盤として、生命がどのように細胞同士の協力関係を築き、多細胞生物へと進化したのか、その分子メカニズムの解明に挑みます。
本研究課題は、文部科学省認定の共同利用・共同研究拠点「J-GlycoNet(糖鎖生命科学連携ネットワーク型拠点)」の2026年度共同研究課題として採択されました。研究は、長崎国際大学、西海国立公園九十九島水族館「海きらら」、イタリア共和国・トリエステ大学をはじめとする国内外の研究機関と連携して進めます。生命進化の理解を深めることで、将来的にはがんや難病の発症メカニズムの理解、新たな診断法や創薬につながる基礎研究として期待されています。
(写真提供:西海国立公園九十九島水族館)
■ 用語解説
糖鎖(とうさ):
細胞表面などに存在する糖分子の集合体です。細胞の種類や状態を示す目印として働き、生命現象に重要な役割を果たしています。血液型(A・B・O)の違いも糖鎖によって決まります。
ガレクチン:
糖鎖を「読み取る」性質を持つタンパク質の一種です。細胞同士の情報伝達や免疫、発生などに関わっています。近年ではがんや炎症、線維症などとの関わりから、新しい診断法や治療法の開発につながる分子として着目されています。
■ ここがすごい!3つのポイント
1. 長崎・九十九島だからできる生命進化研究
九十九島は208の島々からなる全国有数の海洋生物多様性を誇る研究フィールドです。約6~8億年以上前から続く初期の動物系統と考えられるクシクラゲは、生命進化を読み解く重要な手がかりです。世界でも研究例の少ないクシクラゲのガレクチンに着目し、長崎の海だからこそ行える研究で、生命がどのように複雑な体を獲得したのか、その歴史に迫ります。
2. 世界の研究機関と挑む糖鎖生命科学プロジェクト
本研究は、文部科学省認定の共同利用・共同研究拠点「J-GlycoNet」の共同研究課題に採択されました。東海国立大学機構(iGCORE)、自然科学研究機構(ExCELLS)、イタリア・トリエステ大学など国内外の研究機関と連携し、長崎から世界へ向けた生命科学研究を推進します。
3. 生命進化の理解が、未来の医療につながる
私たちの体も、約6億年にわたる生命進化の積み重ねによって生まれました。その仕組みを知ることは、病気が起こる原因を理解することにもつながります。本研究は、ガレクチンが進化の中でどのような役割を果たしてきたのかを明らかにし、将来的ながんや難病の診断・治療、新しい薬の開発につながる基礎研究として期待されています。
■ 採択課題の概要
課題名
Ctenophore Galectinome:
A Key to the Evolutionary GlycoCheckpoint
(有櫛動物ガレクチノーム:進化的糖鎖チェックポイントの鍵)
研究体制
●長崎国際大学大学院薬学研究科糖鎖・レクチン研究プロジェクト
藤井佑樹(代表)、吉田達貞、川嵜達也、小川由起子、藤田英明
●西海国立公園九十九島水族館
川久保晶博、秋山仁、野添裕一
●トリエステ大学(伊)
マルコ・ゲルドル
■ 研究代表者:藤井 佑樹(准教授)の研究経歴
所属・役職 長崎国際大学大学院 薬学研究科 准教授
専門分野 糖鎖生物学、機能形態学
研究の背景
大学院時代から一貫して、糖鎖と、それを認識するタンパク質「レクチン」に着目した研究を進めている。海洋生物が進化の中で獲得した糖鎖認識機構を分子レベルで理解し、生命進化と医学への応用の両面から生命現象の解明を目指している。
2012年:長崎国際大学着任後の研究展開
長崎県産ムラサキインコガイ由来レクチン「セヴィル」について、ガングリオシド糖鎖認識機構と糖鎖依存的な細胞死誘導作用を明らかにした。さらに横浜市立大学との共同研究により、X線構造解析からβトレフォイル構造を持つR型レクチンであることを解明した。
2020年:海きららとの包括連携による研究基盤の発展
海きららとの包括連携をきっかけに、新種ナマコ「クラドラベスキララ」のレクチン「キラレック」の解析を開始。腫瘍関連糖鎖Tn抗原を認識する新しいレクチンとして、その構造と機能解析を進めている。
2026年の研究活動:共同研究課題への採択
J-GlycoNet共同研究課題に採択され、名古屋大学、岐阜大学、自然科学研究機構、イタリア・トリエステ大学など国内外の研究機関と連携し、クシクラゲのガレクチンを中心として海洋生物由来レクチンの機能・進化の解明に取り組む。
研究スタイル
海の生き物が長い進化の中で獲得してきた機能に敬意を払い、その仕組みを分子レベルで理解することを研究の原点としている。自然界から学び、最新の構造生物学や糖鎖科学を融合させることで、生命の進化と仕組みを解き明かすことを目指している。
■ 【取材案内】7月27日(月) 長崎国際大学 にて
日時:2026年7月27日(月) 14:00~15:00(受付 13:45~)
会場:長崎国際大学 薬学棟 会議室
内容:
1)研究プロジェクトの概要説明(藤井佑樹 准教授)
2)質疑応答
3)(希望社のみ)研究室(ラボ)の公開・設備見学
【本件に関するお問い合わせ先】
長崎国際大学 広報担当者:松下・竹内 TEL:0956-39-2020(代) / E-mail:pr@niu.ac.jp
西海国立公園九十九島水族館 担当:野添・秋山 TEL:0956-28-4187

